職場復帰(雅紀) ページ27
雅紀サイド
月曜日、俺は予定通り職場復帰を果たした。
翔にぃからは散々『焦らなくて良いんじゃない？』って言われたけど、満足するまで治療してたら、俺おじいちゃんになっちゃう(笑)
朝、少し緊張して家を出た俺。
病院に向かう車の中では、智にぃが横に座ってくれ、
「何緊張してんの？大丈夫だよ、雅紀は。
そんなに心配だったら、初出勤の頃のこと思い出してみたら？」
って、言ってくれて。
確かに国家試験に合格して医者になったばかりの頃、毎日毎日緊張の連続で、それこそご飯なんて喉を通らなくって(苦笑)
確かにあの時に比べれば、大丈夫かもって思えた。
「そうだね。あの時の緊張やプレッシャーに比べたら、まだまだ余裕があるわ。
1年目が終わる頃まで、俺は何で医者になったんだろってマジで後悔してたもん」
「分かる、それ！櫻井先生って呼ばれる度に、ビクビクして俺は先生なんかじゃないって頭の中で否定して(苦笑)」
思いもしなかった翔にぃの言葉に智にぃと2人して驚いた。
翔にぃなんて、いつも自信満々で堂々としてるから、きっとこんな俺の気持ちなんて分からないだろうって思っていたのに…
「え〜翔にぃでもそんな事思ったの？」
素直な気持ちを言ったんだけど、
「お前さ、俺を何だと思ってんの？
俺だって最初は、毎日頭の中パンク状態で大変だったんだよ？」
って。
そんな翔にぃの昔話も飛び出して、車内は柔らかい空気に包まれた。
ほどなく、病院の駐車場に入り、定位置に車を停めた翔にぃ。
後ろのスライドドアが開く。
俺は大きくひとつ深呼吸をして、車から降り周囲を見渡した。
「ふふっ、もう腹括れた？」
ふにゃんとしたいつもの笑顔を浮かべて言われると、不思議と体の余分な力が抜けて、少し胸の閊えがなくなった気がする。
「ん、大丈夫」
短く返事をして歩き出すと、2人も俺を追うように横に並んで歩いてくれる。
「じゃあな？
帰りもなるべく一緒に帰れるようにするから。俺は無理でも智にぃは大丈夫な筈だから、また連絡して？」
別れ際にそう言った翔にぃは、2人でロッカールームに向かって階段を上って行った。
俺は仕事を始める前に、院長に挨拶をするため、エレベーターを待つ。
ずる休みをしていた訳ではないけど、迷惑を掛けた事には変わりないから、きちんとけじめを着けるためにも挨拶をしないと…
そう頭では分かっているけど、やっぱ緊張する。
俺ってこんなにチキンだった？(苦笑)
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作者名：虹
| 作成日時：2018年12月10日 22時
