一難去ってまた一難 11 ページ12
雅紀サイド
具合が相当悪いみたいで、車イスに座っていても目を開ける事はない。ずっと眉間に皺を寄せたままクタっと車イスを押す俺の腕に凭れ掛かっている。
姿勢を崩すのは可哀想だと思い、凭れられている方の腕はそのままにして、逆の手で額に掛かった髪をそっと払ってやった。
その瞬間、反射的に目元がピクッと動いた。楽にしてて良いよとの思いを込めて、頬を指先で撫でてやると、眉間の皺が消えうっすらと目を開けた。
「すぐに診て貰えるから、もう少し我慢な？」
僅かに頷いたゆかはまた目を閉じた。
程なくして、スーっと開いたスライドドアから、北川先生が顔を覗かせ、
「どうぞー」
って、笑顔で招き入れてくれた。
診察室に車イスを押して入ると、
「お久しぶりです、その後体調はどうですか？」
「あーもう平気です。先生は元気そう、てか幸せそう(笑)」
「もう、相葉先生ったら(苦笑)
そんな事より、ゆかさんよね？」
そう言うとドクターの顔に戻った先生は、車イスの肘掛けを握ってゆかの前にしゃがんだ。
「こんにちは、ゆかさん。初めまして、内科の北川です。今から診察しますね？」
その声に反応して目を開けたゆかは、
「すいません、時間外に無理言って…」
やっと喋ったと思ったら、他人を気遣う言葉で思わず苦笑いが溢れた。
俺もにぃたちに『雅紀は気を遣いすぎ』って言われるけど、ゆかのこの人に対する気遣いは俺の比ではない。
「そんなことは気にしなくて良いのよ。
このベッドに横になれる？
横になったら、検温しながら少しお話聴かせてくれる？」
小さな声で『はい』と答えたゆかは、車イスの肘掛けを掴んで立ち上がろうとした。
でもね、全然力が入らないみたいで…
「おぉ、大丈夫か？」
慌てて車イスの横に行って、腰と肘を支えてあげる。
「ゆっくりで良いからな？」
背中に手を添え、そっと横にならせる。
「随分辛そうね？いつも風邪ひくとこんな感じ？」
ゆかが『どう答えれば良い？』って顔で俺を見るから、
「いや、ここまで酷いのは見たことないです。
どちらかと言うと、我慢強い方で具合が悪いのを何とか悟られない様にって頑張る感じだから、よっぽど辛いんだと思います」
「そう。
じゃあ先ずは検温ね？」
ブラウスのボタンを外し始めたのを見て、さっと目を反らして、丸イスに座った。
何となく落ち着かなくて、座ったままくるくる、くるくる回っていた。
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作者名：虹
| 作成日時：2018年12月7日 15時
