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伊野ちゃんはゆっくりゆっくり話してくれた。
お父さんに虐待されてたこと。
知らない内にお父さんを殺していて、少年院に入っていたこと。
そこでは酷いいじめにあったこと。
そして、その出来事から、記憶が飛ぶことが多いこと。
お父さんにも、少年院の人達にも殺されかけたことがあるらしい。
今の組でも、総長のパシリにされて、機嫌を損ねるとすぐにボコボコにされてしまうのだそうだ。
「俺らの組に入って裏切ったのも、総長の指示なんだな?」
そう聞くと、こくん、と頷いた。
「お前さー、もっと上手くやんなきゃだめだよ。そんなド直球に『弱点は?』なんて聞かれたら、誰だって嘘答えんだろ」
『そうそう。お前もっと頭使え。...ほら、チョコレート』
山田がポケットからチョコレートを出して、伊野ちゃんに差し出す。
伊野ちゃんはそれを睨むような目で見てから俯いた。
『...甘いもの嫌いだから、』
『なんだようめーのに』
山田が差し出したチョコレートをそのまま口に放り込んだ。
それから少し考えたあと、伊野ちゃんに向き直って口を開いて。
『お前、うちの組入れ』
『...へ』
伊野ちゃんは一瞬ぽかんとした後に目に涙を溜めた。
『...でも、総長が、なんて言うか...っ!』
『総長が怖いの?』
『ん...こわ、い...』
「あいつ生きてんのかな?」
俺が笑うと、伊野ちゃんは目を見開いた。
『総長に何かあったの!?』
俺たちは、上手く飲み込めなかった"記憶が飛ぶ"の意味を、ここでやっと理解した。
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作者名:志乃 x他1人 | 作成日時:2019年7月1日 11時