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「じゃあ何故…あちらの世界が好きだから、死にたいってわけじゃないでしょ!?」
立ち上がって座るAに向かい合うようにしてそう声を荒らげても、Aは視線をゆるりと交わすように目を逸らしただけだった。
「死ぬ？わからないよ、死ぬって言うのかな？消える？忘れる？どれかな？
「僕が死を考えるのは、死ぬためじゃない。生きるためなんだ。」
私がそもそも”生きていたのか”は置いておいて、こんなふうな言葉があるのよ。」
「……？」
シーシャは顔を歪めて意味がわからないというふうに彼女を見下ろした。
そもそも”生きていたのか”？それはつまりどういうことだ。
「私はね、もう既に人間としての私は死んでいると思ってる。
実際そうでしょ？この体もただの魔法。あなたの方がよっぽど人間らしい。
私はね、この言葉にはふたつの捉え方があると思っているの。
1つ目は、「死ぬ瞬間のことを考えるのは、そこから新しい考えや知識を生み出し、今を生きるための糧とするため」という捉え方。
2つ目は、「死を考えているのは、別に死のうとしてるわけじゃなくて、生きようとしている」という考え方。
私はどちらかって言うと、後者の方。生きたいから、死にたいの。」
「……意味わかんない。」
「……私にはね、もうこの世界で生きていく勇気も、気力も、何も残ってないんだよ。」
立ちながら彼女を見下ろしているシーシャだが、Aは着物の上で手を重ね、前を向いているもののシーシャよりずっと遠くを見ていて、なんだか怖くなった。
「……だから、私を代わりに？」
「…別に、私は貴方に代わりに生きて欲しいわけじゃない。確かにあなたには、私のエゴで頼みたいことが幾つかあるけど＿」
「そんなの、私は受けないから!!!!」
シーシャは拳を握りしめながら声を荒らげた。
ゆっくりとAの視線が上がり、シーシャを捉えた。
「私は、もう名前も手に入れた。みんなから一人の人間として扱われるようになった！あなたの代わりになんて、なるものか！
考え方だって違う！何もかもが一緒じゃない！あなたの体は借りるけど、でも、私はあなたの思うようには……！」
「だから無駄…って言いたいんだろうけど、残念。そんなことはないよ。」
「！？」
「怒られると思った？手が震えてる。」
指摘されて、シーシャはバッと手を後ろに隠した。
怒りからか恥ずかしさからか顔を赤くして俯いた。
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作者名：氷空音 | 作成日時：2023年2月8日 18時
