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「これ…連絡は、いつでもいいから」
「え、あ、ありがとうございました」
買ったものを片手に店を出ていく背中に叩き込まれたマニュアルを投げ掛ける
き、緊張した。胸に手を当てると、未だドクドクと音を立てていて、しゃがみこむ
出ていく前、握らされたレシート
恐る恐る手を開いて少しシワのついたレシートを広げると、そこには
「…こ、れ…」
10桁のIDらしき文字列と…ずっと知りたかった、彼の名前が書かれていた
川上、拓朗、さん…これがあの人の、名前……かっこいい、名前…
『連絡は、いつでもいいから』
…暖かい。胸が、ポカポカする
小さなレシートを抱き締めて、緩む頬を見られないようにうつむく
「ッあ”…!」
だけど、そんな暖かい心を冷ますように、内側から殴られたような重い痛みが走る
床に手をついて、腰辺りの服を強く握りしめる
…あぁ、そうだ。私には、もう、誰かを好きになる資格なんかないんだ
好きになったって、もし結ばれる事が出来た時が来た時にはきっともう、私はこの世に居ないから
覚悟が固まった筈だったのに、今だけは、その事実があの日の様に、虚しかった
「あ、店長…お疲れさまでした」
「おぉ、Aちゃんお疲れ。今日もよく頑張ったね」
「あ、あはは、ありがとうございます…」
時間が来てコンビニの制服から学校の制服に着替えて店内に戻ると、さっきまで来ていなかった店長と鉢合わせてしまう。最悪だ
軽く挨拶をして帰るつもりだったのに、いつの間にか距離を詰められてしまった
いやらしく太股を這う手に吐き気を覚えながら愛想笑いを浮かべていると、店長が耳元に顔を寄せてくる
…なにを言っていたのかは、正直あまり覚えていない
でも、これが彼だったら、川上さんだったらと思ってしまう私は、きっともう手遅れ
「…寒い」
今日も手袋を忘れてしまって赤くなった手の中にあるのは、一枚のレシート
確かに、寒い。でもこれを見ているだけで、少しだけ暖かくなる気がして
自然と顔に笑顔が浮かんだ
このレシートがあるだけで、これから帰って起こる事にも、耐えれる気がした
理不尽な学校生活も、セクハラする店長も、短い人生も、耐え抜くことが出来そうな気がした
それほどまでに…彼の存在は、私の中で大きくなっていたんだ
―――神様は、なんて残酷なのだろう
私にはもうこれからは無いのに、あんなにも素敵な人と、今更巡り合わせるなんて
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白菜(プロフ) - すずどらさん» こちらこそコメントありがとうございます。とても励みになります。誰かの心に響くような話を書くことができて良かったです。更新頑張ります (2019年12月15日 16時) (レス) id: f8ddf3423a (このIDを非表示/違反報告)
白菜(プロフ) - あやかさん» こちらこそコメントありがとうございます。誰かを好きになるって大変なんだな、と書いた本人ながら思ってます。これからも切ない恋の模様を見守って頂けたら幸いです (2019年12月15日 16時) (レス) id: f8ddf3423a (このIDを非表示/違反報告)
すずどら - 僕の推しは川上さんなので凄く嬉しかったです。せつない作品で、とても良いな、と心に染みています。また、続きを楽しみにしてます。頑張って下さい。 (2019年12月15日 10時) (レス) id: 66850163cc (このIDを非表示/違反報告)
あやか(プロフ) - せつない作品をありがとうございます。現在さめざめと泣いております…。続きをお待ちしております。どうぞよろしくお願いします。 (2019年12月15日 0時) (レス) id: 7a1dedd698 (このIDを非表示/違反報告)
白菜(プロフ) - Qさん» こちらこそいつもコメントありがとうございます!!無料世界一周旅行出来るくらいの作品が書けているかはまだまだ自信ないですが、そう言って貰えると本当に嬉しいです!!Qさんもインフルエンザにはお気をつけて! (2019年12月9日 14時) (レス) id: f8ddf3423a (このIDを非表示/違反報告)
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