朝と君と待雪の花 10 ページ40
ーーーー夢を見た。
雪の中、白い花を探す。母が取ってこいと命じた花。ごうごうと雪は荒ぶ。小さな体では耐えきれずに、ついにうずくまったとき、ぽうと浮かぶ暖かな光が目に付く。最後の力を振り絞ってたどり着くと、四季の精霊たちがいた。
どうしたのだと、春の精霊が問いかける。青の髪の男。ほかの精霊たちは兄弟らしく、美しい顔立ちだった。
「お願いです、雪の雫の花を探しています。どこにあるか、教えてください」
「春にしか咲かねぇぞそりゃあ」
「お願いします、母の命令なの」
「こんな猛吹雪のさなかか?」
顔を顰めた春の精霊は、しかしこのままかえすのは憐れだと言ってくれた。
「兄弟たち、頼む。時間をくれ、いっときでいい」
夏、秋、そして冬の精霊から時間が渡され、森はたちまちのうちに暖かな気配に満ちた。雪解けの大地から雫を纏い、咲き乱れる春の、希望の花。
「ありがとうございます、どうお礼をしたら……」
「それじゃあ妻になってくれ。約束に、俺の指輪を渡す。これは魔力のこめた特別なものだ。母親にその花を渡したら、呪文をとなえろ。そうすればすぐここへたどり着く」
結婚なんて急だなぁと思いながら、でもお礼はしなければと頷いた。
「まもなく時間が戻る。おいオルタ、送ってやれ」
傍らの湖から現れたのは、怪物だった。闇色の身体でずるずると雪を這うように進んでくる。ぎろり、とこちらを睨む眼の赤に囚われるようだった。
ぐるりと鋭く突き出た棘にまみれた尾に包まれ、吹雪を突き進む。家まではまたたきのうちだった。
戸口で降ろされたとき、その尾にしがみついたのは心より先に、身体が動いてのことだ。
「まって、わたし……あなたがーーー」
告げた言葉を、怪物は笑う。
「この獣をーーだと?」
「ええ、だってあなたがいい」
「なぜ。オトモダチをーーにはならんだろう」
「じゃあオトモダチでもいい。わたし、あなたがいいの。あなたのこと、ずっと、覚えていたいの」
貰ったばかりの指輪を長い爪の生えた手に落とす。
「ごめんなさい、お礼では結婚できないわ」
「……あれはそんな勝手、許さんぞ。祝いは呪いに変わる」
「それでもいい。あなたがいないなら、わたしの森に花なんてもう咲かないもの。ずっとさみしいまま、凍えたまま、とざすわ」
泣き出したいのをこらえて告げる。怪物は眉を寄せたけれど、やがて尾で抱き寄せでくれた。
「ならば、よこせ。お前の……」
「いいわ、あげる」
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Sandoriyon0000(さんどりおん)(プロフ) - 碧依さん» わわわわ感想ありがとうございます!!2度もいただいてもったいない……!は、発狂!そこまで萌えていただけて嬉しいです!いつも応援ありがとうございます、3部頑張ります! (2018年1月11日 0時) (レス) id: 1352ea05b0 (このIDを非表示/違反報告)
Sandoriyon0000(さんどりおん)(プロフ) - ありささん» はじめまして!感想ありがとうございます!1章から読んでいただけて嬉しいです!3章楽しみにしていただけている気持ちに答えられるよう頑張ります、応援ありがとうございます……! (2018年1月10日 16時) (レス) id: 1352ea05b0 (このIDを非表示/違反報告)
碧依(プロフ) - 第2部完結おめでとうございます!最後の方は超絶キュンキュンして悶えながら読んでました← もう心の中で発狂してました← 第3部も続くとのことで、とても嬉しいです! 心待ちにしています! これからも頑張って下さい! (2018年1月10日 14時) (レス) id: e83e0a514a (このIDを非表示/違反報告)
ありさ(プロフ) - はじめまして、一章から楽しく読ませていただいております!三章が凄く楽しみです!これからも頑張ってください!! (2018年1月10日 13時) (レス) id: 5124bcd214 (このIDを非表示/違反報告)
Sandoriyon0000(さんどりおん)(プロフ) - いよりさん» はじめまして!感想ありがとうございます!1章かは2章まで読んでいただけて嬉しいですありがとうございます……!3章もハラハラドキドキ、きゅんきゅん多めな展開を目指して頑張りますので、よろしくお願いします! (2018年1月9日 21時) (レス) id: 1352ea05b0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Sandoriyon0000 | 作成日時:2017年12月13日 23時