君のいる朝 21 ページ25
「暇そうだねぇ、本でも読むかい?」
ここへ来てまもなくの頃、ダ・ヴィンチがくれたのは絵本だった。困ったことに、Aは字を知らない。字だけじゃない。物語というものがあることも、知らなかった。何も知らない。わたしは、何も。自分の無知さに気後れしていると、ダ・ヴィンチは閃いたかのように呟く。
「そうか、知識体としての君は死滅している。これはすまない、とんだ意地悪だ。ま、お茶目ということで目を瞑っておくれ」
「どこで、それ……」
「天才のちょっとした推理さ。さて、そうとわかれば、君は学ばなければならない」
ダ・ヴィンチはくれたばかりの絵本を読み上げてくれた。
「これはある花にまつわる言い伝えでね。聖歌に親しみがある君なら、そう抵抗なく理解できるかもしれない」
ーーーー昔々、雪には色がありませんでした。これでは天の御使いとしての役目が果たせません。
雪は様々な色の花が集まる園へ出向いてお願いしました。
"どうか私に、色をわけてください"
どの花も、いやよいやよと首を振ります。雪は途方にくれました。これでは地上に降りることができません。
その時です。隅の方で揺れていた小さな花が、小さな声でこう言いました。
"わたしの色でよければ、どうぞお使いください"
こうして雪は色を手に入れたのです。
雪は言いました。
"あなたは私の、希望の花だ"☻
雪は自らの名と、春一番に咲く栄光をその花に与えました。
花の名前はスノードロップ。
アダムとイブが楽園を追放され、永遠の冬に嘆き悲しんでいたとき、天使が与えたのもこの花です。ーーーーー
「……やさしい、お花」
「まぁたしかに、この行為は優しさともとれるか……ああいけない、人はどうも大人になると純朴さを忘れてしまう。A、その感性は大切に育てるといい」
ダ・ヴィンチはAの頭をぽんぽんと軽く叩いた。
「……レオナルドさん」
「ん?」
「わたしも、このお花みたいになりたい」
誰かにとっての、優しさに。
誰かにとっての、希望に。
全てを投げ打ってこの世界へ逃がしてくれたーーーーううん、もう一度生きなさいと、背を押してくれた、私のためにも。
「……なれるさ。抱き続けていれば、必ず」
人は不確かなものでも、信じられる生き物なのだから。
ーーーー
スノードロップ(待雪草)……ヒガンバナ科の植物。様々な言い伝えや物語に登場する花。聖燭祭とも関わりが深い。花言葉「希望」「慰め」
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Sandoriyon0000(さんどりおん)(プロフ) - 碧依さん» わわわわ感想ありがとうございます!!2度もいただいてもったいない……!は、発狂!そこまで萌えていただけて嬉しいです!いつも応援ありがとうございます、3部頑張ります! (2018年1月11日 0時) (レス) id: 1352ea05b0 (このIDを非表示/違反報告)
Sandoriyon0000(さんどりおん)(プロフ) - ありささん» はじめまして!感想ありがとうございます!1章から読んでいただけて嬉しいです!3章楽しみにしていただけている気持ちに答えられるよう頑張ります、応援ありがとうございます……! (2018年1月10日 16時) (レス) id: 1352ea05b0 (このIDを非表示/違反報告)
碧依(プロフ) - 第2部完結おめでとうございます!最後の方は超絶キュンキュンして悶えながら読んでました← もう心の中で発狂してました← 第3部も続くとのことで、とても嬉しいです! 心待ちにしています! これからも頑張って下さい! (2018年1月10日 14時) (レス) id: e83e0a514a (このIDを非表示/違反報告)
ありさ(プロフ) - はじめまして、一章から楽しく読ませていただいております!三章が凄く楽しみです!これからも頑張ってください!! (2018年1月10日 13時) (レス) id: 5124bcd214 (このIDを非表示/違反報告)
Sandoriyon0000(さんどりおん)(プロフ) - いよりさん» はじめまして!感想ありがとうございます!1章かは2章まで読んでいただけて嬉しいですありがとうございます……!3章もハラハラドキドキ、きゅんきゅん多めな展開を目指して頑張りますので、よろしくお願いします! (2018年1月9日 21時) (レス) id: 1352ea05b0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Sandoriyon0000 | 作成日時:2017年12月13日 23時