君のいる朝 15 ページ19
「……くー」
Aは狂王のすぐ下までやってきた。ぽた、ぽたと、血が滴る。
ああ、痛いだろう。苦しいだろう。ふー、ふーと、ひどく乱れた呼吸にも、血が混じる。ごふりと、色を失った彼の唇を濡らし、Aの頬も濡らす。
狂王の足が力を失い、がくりと座り込む。それでも爛々と、赤く禍々しい気配が眼に根付いたまま。
これも、彼。Aは目をそらさなかった。生き物としての根源的な恐怖はあっても、それを上回る感情がAの心を強く駆り立てた。
カルデアに運ばれ、目が覚めるまで、彼はAの傍らにいたと聞いた。きっと、こんな気持ちをさせてしまった。
悲しくて、不安でたまらない。
彼の苦しみが、Aにはわからない。わからないことが、こんなにも苦しい。
「……もう、いいよ」
Aは狂王の頭を、そっと抱き寄せる。突然のことに身体を強ばらせる狂王に、Aは優しく囁いた。彼が眠れるように、祈りながら歌う声と、同じようにーーーー
「もう、いいの。終わったの……ここまで、帰ってきたの」
手が血に濡れることなど構わなかった。こんなになってまで戦った彼を、労わってあげたかった。
「おかえりなさい。もう、休んでいいよ……くー」
それまで狂王を覆っていた気配が、ふうっと、遠のく。見開かれた眼から、狂化の色が消えてゆく。
張り詰めていた糸が切れたように、狂王は倒れ込んだ。Aは踏ん張り、重い身体を支えようとする。
「お嬢ちゃんの身体だと無理だ、潰れるぜ」
助け舟を出したのは、ランサーだ。狂王の腕を慎重に持ち上げ、肩にかけて引っ張り上げる。また血が溢れたが、もう仕方あるまい。
ランサーはぽん、と不安そうな顔でオルタを見つめる少女の頭に空いている手を置いた。
「心配すんな、これくらいじゃ死にゃしねぇよ」
じわ、と、大きな目に涙が浮かぶ。泣かせるのは忍びないので、少女の為にも一刻も早い治療が必要だった。
「キャスター、てめぇも手伝え。マスター、治療できるか」
マスターはもちろんと頷いた。しかし、実際のところは今にも意識が落ちそうだ。狂化に引っ張りこまれそうになった後遺症は、ランサーにはお見通しだろう、申し訳なさそうに眉を寄せる。
「始末の悪い俺に付き合わせて悪いな」
「ううん。早く治そう」
男二人がかりで、意識のない狂王がずるずると医務室へ運ばれる。予断のならない状況が過ぎ去り、管制室にも安堵の空気が漂う。
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Sandoriyon0000(さんどりおん)(プロフ) - 碧依さん» わわわわ感想ありがとうございます!!2度もいただいてもったいない……!は、発狂!そこまで萌えていただけて嬉しいです!いつも応援ありがとうございます、3部頑張ります! (2018年1月11日 0時) (レス) id: 1352ea05b0 (このIDを非表示/違反報告)
Sandoriyon0000(さんどりおん)(プロフ) - ありささん» はじめまして!感想ありがとうございます!1章から読んでいただけて嬉しいです!3章楽しみにしていただけている気持ちに答えられるよう頑張ります、応援ありがとうございます……! (2018年1月10日 16時) (レス) id: 1352ea05b0 (このIDを非表示/違反報告)
碧依(プロフ) - 第2部完結おめでとうございます!最後の方は超絶キュンキュンして悶えながら読んでました← もう心の中で発狂してました← 第3部も続くとのことで、とても嬉しいです! 心待ちにしています! これからも頑張って下さい! (2018年1月10日 14時) (レス) id: e83e0a514a (このIDを非表示/違反報告)
ありさ(プロフ) - はじめまして、一章から楽しく読ませていただいております!三章が凄く楽しみです!これからも頑張ってください!! (2018年1月10日 13時) (レス) id: 5124bcd214 (このIDを非表示/違反報告)
Sandoriyon0000(さんどりおん)(プロフ) - いよりさん» はじめまして!感想ありがとうございます!1章かは2章まで読んでいただけて嬉しいですありがとうございます……!3章もハラハラドキドキ、きゅんきゅん多めな展開を目指して頑張りますので、よろしくお願いします! (2018年1月9日 21時) (レス) id: 1352ea05b0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Sandoriyon0000 | 作成日時:2017年12月13日 23時