アレルヤ 【4】 ページ10
ーーーーそうして少女が出した結論は、至極薄ら寒いものだった。
「······かみさまならいるわ。だって、願いは叶ったもの」
のろのろと、こちらを見上げる瞳。
月の光を吸い込んで、どこまでも冷たく、色がない。だというのに、明け透けなまでに、少女の感情を孕んで映し出す。
「本当はね、目覚めた時にわかっていたの。もうここには誰もいないこと。わたしはいつかひとりで死ぬ、それだけが怖くて祈ってた。でも」
微笑む眦から、零れ落ちた雫。
「あなたが、きてくれた。願いを叶えてくれた。わたし、これでひとりじゃない。あなたが遠く離れても、わたしはあなたを覚えて、逝ける」
おともだちは忘れないものよと、ふざけたことをぬかす。
「······たわけ」
狂王は短く吐き捨てた。それすら嬉しいのだろう、Aには。
彼女のただひとつの希望は、クー・フーリン【オルタ】との出会いで叶えられた。
出会うのなら誰でも、なんでもよかったのだ。
例えば種が傍らに落ちて花を咲かせたのなら、少女はそれで満足しただろう。
この死んだ世界で、たったひとりの生者が耐えきれなかったのは、ひとりであったという事実。
少女に願いはなく、未来もない。あとはただ、この出会いを記憶して、死に向かって生きていく。
ーーーー讃えよう。あなたを讃えよう。この出会いを讃えよう。
Aは歌う。その言葉は、祈りは、全て。
神ではなく、たったひとりのためにあったのだと、その涙で、歓喜で、思い知らされる。
わからない。
狂王は少女を見下ろす。
泣きながら笑うこの生き物が、わからない。
たったひとつの出会いで、死を受け入れるその心が、わからない。
人ほど願い、生に貪欲な生き物はいないはずなのに。
もうひとつ。癪に障ることがある。
そばにいてやると、クー・フーリン【オルタ】は確かに口にした。それは少女が万が一にも魔力の供給を拒むことがないように仕掛けた対価交換。
ーーーーそんなもの、いらなかったのだ。
今すぐその心臓を突き破っても、彼女は受け入れる。いっそ幸せとして記憶するかもしれない。
尾にぶら下がっていなければ立てないほど脆弱で、不自由な生命。現実すら見られないがらんどうの瞳。
それらをどうして。こんなにも。
握りつぶしたい。
壊したい。
殺めたい。
侵したい。
狂王としてのごくごく自然な衝動の向こうに見える、不可解な感情。
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皐摩(プロフ) - もう…!!好き過ぎる…!最高すぎる作品ですうううう!!!! (2019年2月28日 3時) (レス) id: 8434b91720 (このIDを非表示/違反報告)
Sandoriyon0000(さんどりおん)(プロフ) - 火星さん» 感想とお祝いありがとうございます!このままBADエンドでもいいんじゃないかと途中で悪魔が囁いてきましたが、たぶん狂王の宝具で木っ端微塵にされたんだと思います(笑)続編の方も頑張ります、応援ありがとうございます! (2017年12月28日 21時) (レス) id: 1352ea05b0 (このIDを非表示/違反報告)
火星 - 完結おめでとうございます。途中から主人公が消失するのかと思ってヒヤヒヤしていましたが、最後は狂王と主人公がちゃんと幸せそうでよかったです。続編でも頑張ってください、応援しています! (2017年12月27日 10時) (レス) id: 9638a5e671 (このIDを非表示/違反報告)
Sandoriyon0000(さんどりおん)(プロフ) - 川瀬さん» ありがとうございます!実は川瀬さんの作品、私も陰ながらこっそり読ませていただいています。今は無き理想郷のランスロットと主人公ちゃんのやり取りが微笑ましくて何回も見てます。続編では幼女とイチャイチャ()を考えていますのでよければよろしくお願いします! (2017年12月13日 23時) (レス) id: 1352ea05b0 (このIDを非表示/違反報告)
Sandoriyon0000(さんどりおん)(プロフ) - 鏡花・オルタさん» ありがとうございます!コンセプトが最後は絶対ハッピーエンド!(漠然)だったので、この結末に落ち着けたことに自分でもホッとしています。続編では優しいオルタと優しい世界を目指します。またよければよろしくお願いします! (2017年12月13日 22時) (レス) id: 1352ea05b0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Sandoriyon0000 | 作成日時:2017年10月21日 3時