夜の国

アレルヤ 【2】 ページ8

アレルヤ。アレルヤ。

確かーーーー神を賛美する言葉、だったか。

そういえば泣いた時も｢神よなぜわたしを見捨てられたのか｣とかなんとか、言っていた気がする。
おそらく説法か祈りの前の決まり文句か何かだろう。

カルデアに現界する前のマスターの影響とかでミサだの礼拝だのをかじったランサーの己ならば詳しいのだろうが、生憎とここにはいない。
Aの格好は、頭から布を被っていないだけで修道女のそれだ。禁欲的な黒い布で小さな身体を包み、目覚めると飽くことなく歌い、祈り続ける。

割れたステンドグラスと、顔の崩れた聖女像、欠けた十字架の下、降り止まない灰をかぶりながら。

傍から見れば絶望の光景だった。
奇跡など舞い降りるはずもないことをAだけがわからない。その目が見えないから。

狂王はちいさな背中を見ていると、残酷な気持ちになる。
この世界の有様を一つひとつ声に出して伝えてやりたい。神も人もみな等しく滅んだのだという事実を知った時、見えない瞳はどんな涙を流すだろうか。

今日の祈りを終えたらしい。少女は顔を上げた。この瞬間の人離れした表情が、狂王は数少ない感情の起伏の中で、それでも苦手と感じた。

｢ねぇ、くー｣
｢······その呼び方はやめろ｣
｢じゃあ、ふー｣
｢却下だ、殺すぞ｣
｢もう、わがまま！｣

頬を膨らませる間抜けで感情に素直ないまの方が、まだ見ていられる。

手を伸ばす少女の指先に、尾を差し出す。
少女は風の動きを感じて、すぐに掴んできた。尾を触らせてやって以来、どうにもこれがお気に入りだ。
目の見えないAは、この異形を好んだ。
こちらとしても、ろくに動けないくせ探し回られるよりずっといい。無駄な打ち身を減らせる。

尾に抱き着く身体を抱き上げて引き寄せる。痩せた身体はただただ軽く、狂王でも慎重にならざるを得ない。
Aはおとなしくされるがままだ。それどころか膝の上に乗せると｢楽しい｣と笑っている。

｢······物好きめ｣

独り言のつもりだったが、失くした視力の代わりか、聴力と感覚が鋭いAにはしっかり聞こえていたようだ。

｢物好きはあなたの方だわ、クー・フーリン｣
｢なに······？｣

アレルヤ 【3】→←アレルヤ 【1】

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す