アメイジング・グレイス【5】 ページ43
アーチャーはすぐに彼女を見つけた。
あの時と違わない聖女の姿で、彼女は朽ちる世界を俯瞰していた。
｢言ったろう、弊害が出る、と｣
女はおかしそうに笑う。
｢弊害？ まさか。抑止がこれを許すはずがない。現にあなたが現れた｣
｢あのとき殺めていたほうが、君も楽だったかね｣
｢穏やかな夢を見れて、私は幸せだったわ。だから、今で正解よ｣
責める気配は微塵もなかった。アーチャーは眉間に深くシワを寄せる。
｢そんな顔しないで。あなたは正しいことをしてるわ｣
｢······人殺しに正しさなどあるものか｣
苦い、つぶやきが落ちる。彼女は、アーチャーを痛ましそうにみつめた。破壊の概念にあるまじき表情だ。
指先が、アーチャーの頬を撫でる。はじめて真正面から向き合った瞳はーーーー驚くほど、綺麗な輝きを秘めていた。
｢咎めなくていいの。それより未来を見て。それから、あなたさえよければ、わたしを見守ってあげてね｣
｢待て、まさか君｣
｢いいのよ。お返しみたいなものだから······今度こそ、この世界に留まるわ。帰る時は忘れてちょうだいね、なにもかも｣
ぐにゃり、と。彼女の存在が歪む。
概念という格を落としーーーー彼女は英霊として、エミヤの前に立った。己を己で召喚するというとんでもない無茶をやってのけたようだ。
｢これでもう君は、本当に普通ではいられない。人であった記憶もなくす。なにもかも、失う｣
｢いいのよ、いいの｣
彼女はちぐはぐに、笑う。困ったように、それでも、幸せそうに。
｢それでいいの｣
彼女の最初で最後の宝具が、世界を飲み込み、許しの光で包み込む。逆光で眩む女のシルエットに向けて、エミヤは矢をつがえた。
悪を討つとは、どうしても思えない。あのとき、街を焼き払った炎が彼女だったのだとしても。
(私も、君を許すよ)
自らが放った軌跡を見つめながら、アーチャーは柄にもなく後悔した。
ああそういえば、私は、彼女の名を知らないーーーー
ーーーーーーーー
気がつくと、マスターはふわふわと、浮いていた。
まだあの、光の中にいるらしい。
聖杯だと、思っていたのに、サーヴァントだったのだろうか、あの人は。
(さようなら、って言ってた)
聞きたいことが、あったはずなのに、また聞けなかった。後悔より、悔しさが強い。
俯くと、ずきりと令呪が痛む。
はっと顔を上げた先に、背中が見えた。
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皐摩(プロフ) - もう…！！好き過ぎる…！最高すぎる作品ですうううう！！！！ (2019年2月28日 3時) (
レス) id: 8434b91720 (このIDを非表示/違反報告)
Sandoriyon0000(さんどりおん)(プロフ) - 火星さん» 感想とお祝いありがとうございます！このままBADエンドでもいいんじゃないかと途中で悪魔が囁いてきましたが、たぶん狂王の宝具で木っ端微塵にされたんだと思います（笑）続編の方も頑張ります、応援ありがとうございます！ (2017年12月28日 21時) (レス) id: 1352ea05b0 (このIDを非表示/違反報告)
火星 - 完結おめでとうございます。途中から主人公が消失するのかと思ってヒヤヒヤしていましたが、最後は狂王と主人公がちゃんと幸せそうでよかったです。続編でも頑張ってください、応援しています! (2017年12月27日 10時) (レス) id: 9638a5e671 (このIDを非表示/違反報告)
Sandoriyon0000(さんどりおん)(プロフ) - 川瀬さん» ありがとうございます！実は川瀬さんの作品、私も陰ながらこっそり読ませていただいています。今は無き理想郷のランスロットと主人公ちゃんのやり取りが微笑ましくて何回も見てます。続編では幼女とイチャイチャ()を考えていますのでよければよろしくお願いします！ (2017年12月13日 23時) (レス) id: 1352ea05b0 (このIDを非表示/違反報告)
Sandoriyon0000(さんどりおん)(プロフ) - 鏡花・オルタさん» ありがとうございます！コンセプトが最後は絶対ハッピーエンド！(漠然)だったので、この結末に落ち着けたことに自分でもホッとしています。続編では優しいオルタと優しい世界を目指します。またよければよろしくお願いします！ (2017年12月13日 22時) (レス) id: 1352ea05b0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Sandoriyon0000 | 作成日時：2017年10月21日 3時
