【4】 ページ29
ーーーー主よ、慈しみの主よ
私は知らなかった。願いに触れながら、絶望が何かを知らなかった。
こんなに恐ろしいものだと、知っていたのなら。
わたしは、もっと強く、もっと優しくあるべきだった。かれらの痛みを、本当の意味で知ることなく、夢を見せるだなんて。なんという傲慢だったのか。
きっとこの先、わたしはひとり。今度は呪いそのものとしてこの地にあるのでしょう。
それがたまらなく、悲しい。
繰り返した懺悔の果て。
この地に、あるはずのない足音が聞こえた。
「君かね、抑止力への裏切り者とは」
紅い武装の青年だった。白い髪に飴色の肌。険しい顔つきは、痛みを堪えているかのよう。
「どなた?ここへはもう何も訪れようがないはず」
「本来ならばそうだろう。わたしはアラヤに属す者、ここへ至った目的は君の監視だよ」
それを聞いて、わたしは歓喜した。
「······ああ、名も知らないけれど、守護者の方。どうかお願いです。わたしの目を潰してください。もう何も見たくない。それが済んだら、わたしの足を切り取って。そうすればわたしは、ここから永遠に動くことはできない。いまは人の形をしているのですから」
そうすればあなたは、新しい場所へといけるでしょう。あなたを必要とする世界は他にもある。
青年はすいと、目を細めた。鋼の色は、猛禽類が空から地へ舞い降りる前のような鋭さを持ってわたしを射抜く。
「完全には不可能だ。いくら肉体があるとはいえ、君はもう概念だぞ」
「ならば神経を殺してください。あなたの武器なら可能でしょう」
「正気か? 神経は回路と同じだ、尋常ではない痛みが伴う」
「構いません。その痛みをもってしても贖えぬことです。見たくないのは、わたしという生き物の弱さなのです」
焼き付け続けなければならない景色から、わたしは逃げるのだ。暗闇の中へ。
「どんな弊害が出ても責はおえんぞ」
「構いません。さあ、はやく」
ーーーー最後に彼はこう言った。
「思っていたより、ちぐはぐだな。君は。破壊にしては、優しすぎる」
せめてひとときでも安らかであれという願いは、容赦なくわたしを貫いた。
初めての痛みは凄まじく、彼の言った通り、弊害は起きた。
わたしは魂と肉体にわかたれた。
魂は、願った通りの暗闇へ。そこは根源の渦ーーーー夢の彼方、満たされていて、何も無い場所。
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皐摩(プロフ) - もう…!!好き過ぎる…!最高すぎる作品ですうううう!!!! (2019年2月28日 3時) (レス) id: 8434b91720 (このIDを非表示/違反報告)
Sandoriyon0000(さんどりおん)(プロフ) - 火星さん» 感想とお祝いありがとうございます!このままBADエンドでもいいんじゃないかと途中で悪魔が囁いてきましたが、たぶん狂王の宝具で木っ端微塵にされたんだと思います(笑)続編の方も頑張ります、応援ありがとうございます! (2017年12月28日 21時) (レス) id: 1352ea05b0 (このIDを非表示/違反報告)
火星 - 完結おめでとうございます。途中から主人公が消失するのかと思ってヒヤヒヤしていましたが、最後は狂王と主人公がちゃんと幸せそうでよかったです。続編でも頑張ってください、応援しています! (2017年12月27日 10時) (レス) id: 9638a5e671 (このIDを非表示/違反報告)
Sandoriyon0000(さんどりおん)(プロフ) - 川瀬さん» ありがとうございます!実は川瀬さんの作品、私も陰ながらこっそり読ませていただいています。今は無き理想郷のランスロットと主人公ちゃんのやり取りが微笑ましくて何回も見てます。続編では幼女とイチャイチャ()を考えていますのでよければよろしくお願いします! (2017年12月13日 23時) (レス) id: 1352ea05b0 (このIDを非表示/違反報告)
Sandoriyon0000(さんどりおん)(プロフ) - 鏡花・オルタさん» ありがとうございます!コンセプトが最後は絶対ハッピーエンド!(漠然)だったので、この結末に落ち着けたことに自分でもホッとしています。続編では優しいオルタと優しい世界を目指します。またよければよろしくお願いします! (2017年12月13日 22時) (レス) id: 1352ea05b0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Sandoriyon0000 | 作成日時:2017年10月21日 3時