夜の国

【2】 ページ27

殻に罅が入る。ぱきりぱきりと、脆い音。
わたしは抱いた膝から顔を上げた。ああ、よくやく。ようやく。
生まれることができるのだ。

あいしているわ。優しい声が囁く。
はやくうまれておいで。あたたかなぬくもりが殻越しにわたしを撫でる。

あたたかな暗闇から出るのは、怖い。
それでも私は会いたいのだ。
私を呼ぶぬくもりと声に。

ーーーー叶わない願いだった。

そうしてわたしはたったひとり。生まれ落ちる前に死んだのです。

ごめんなさい。
ごめんなさい。
謝罪の声がいつまでも聞こえる。
産んであげられなくてごめんなさい。
嘆きの涙の落ちる音がする。

優しいひとたち。
あなたたちが悪いわけではないのです。
わたしという命を包む肉体が、この暗闇以外、耐えられなかっただけなのだから。
だからどうか泣かないで。
わたしを望んでくれたあなた達の元へ、ゆくことはできなかったけれど。
それでもわたしは、幸せでした。

優しいあなたたちにのぞまれたことが、何よりの誇りなのです。

だから許します。赦します。
あなたたちも、かみさまも、この運命も、わたしも含めて。

弔う歌が聞こえる。
神のもとへ運びたまえと、安らぎを願う歌だ。

ーーーー赦しの中で全てを終える、それが原初の記憶。



生まれ落ちることのできなかったわたしは、還る途中で大きな力に留められた。
力は手足を欲しがっていた。なぜなら力は意志を持っても動かせる肉体がなかったから。
わたしは喜んで応じた。役に立てるなら、と。

力の名は｢抑止｣といった。
【ガイア】と【アラヤ】ふたつの側面を持つ。
抑止力は、最期に赦すことができたわたしへ、重大な仕事を託してくれた。
それは｢願いの救済｣

人類か星の滅亡を阻止するという目的のために働き、絶対的な勝利を収める抑止力の前には、敗れた願いがある。

願いは、様々な形をしていた。
もちろん、純粋におわりを望むものもあったけれど。
不思議なのは、滅亡を願う彼らの本質。その多くは別にあるということだった。

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