夜の国

もろびとこぞりて【5】 ページ24

何も知らないと笑う少女の言葉を｢事実｣として処理を下し、それ以上追求しなかった。それこそが少女の無意識下での望み。

ーーーーああ、そうか。
狂王は、送られる魔力の中から全てを知る。少女はずっと、狂王に伝えていた。

｢A、お前は｣

だれかの、願望(聖杯)だったんだな。


灰が止む。世界はひたりと息を止め、安堵したように崩れ出す。
地響きが朽ちた教会を容赦なく襲う。

｢A！｣

見開いた先で、少女は床に走った裂け目へ飲み込まれる。口を開く暗闇へ、狂王もまた飲み込まれるーーーー

あの時の痛みだ。
マスターたる少女は予感めいた衝動に突き動かされて目覚めた。鏡に向かって捲りあげたシャツ。反転した素肌に刻んだ令呪は赤く発光している。
寒気と痛みに耐えながら、よろよろと少女は部屋を飛び出した。

｢オルタ······！｣

異常事態への救援を求めてドルイドの賢者である師の部屋へ走る。ぺたぺたと、素足の音が煩わしい。

｢師匠、起きてる？！｣

バンバンと叩けば、高性能なスライドドアはマスターの魔力を読み取ってひとりでに開く。
果たしてキャスターは、起きてなにやら作業を行っていた。顔まで覆う外套をとっぱらい、逞しい二の腕があらわになっている。こんな時だが、ドキリと胸は高鳴った。
キャスターの方もキャスターで目を見開く。

｢マスタァ？！ てめっ、なんて格好してやがる！｣

多少どんくさ······抜けたところのあるマスターではあったのだが。
年頃の少女の、まだ青いとはいえ女らしくしなやかな上半身を覆う布が白の総レースの布1枚という寒々しい格好や、これいかに。
なかなか愛らしいデザインを選ぶなという思考は断じて微塵も過ぎっていない。

｢わたしの師匠の仲だから見逃して！｣
｢どんな仲だ誤解を生むわ！！ 第24話(現在)から目を通す読者もいるんだぞ？！｣
｢そこは妄想で補ってもらおう！！｣
｢余計悪いわ！！｣

互いの混乱が生んだ目処のない会話である。
キャスターが痛む頭を抱えた瞬間に、くちんっと盛大なくしゃみ。いくら空調の管理されているカルデアとはいえ、外は猛吹雪なのだ。

｢ったく、手のかかる······使え、風邪をひく｣

術式の邪魔になるからと脱いだ外套を丸い頭へ被せる。少女の華奢な身体には当然ぶかぶかで、これはこれでなかなか······
ではなく。

もろびとこぞりて【6】→←もろびとこぞりて【4】

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す