もろびとこぞりて【4】 ページ23
狂王の怒声がステンドグラスを震わせた。かろうじて姿を残すマリアの頬に、びきりと罅を走らせるほどの声量と、送り込まれる魔力を拒否したことによる爆風。
狂王が気がついた時、少女は遠くで、くずおれたように蹲っていた。
己が何をしたのか瞬時に察した狂王は、無意識に一歩、少女から距離を置く。
｢ち、がう｣
吐息のように弱々しい声が、否定する。それが己の声とは思えず、狂王は更に一歩下がった。
いますぐに駆け寄って、抱き起こしてやるべきだとはわかっている。だが、自分がーーーーこの手が、少女の身体を突き飛ばしたのだ。
その重大さに、動けずにいた。そうして静けさの中で思い出す。
己はなんの願いでもって生まれてきた？？
｢くー······｣
少女はのろのろと、緩慢に起き上がった。腫れた頬で、歪に、笑う。
｢だい、じょうぶ、よ······わたしは、大丈夫｣
こんな時すらちぐはぐな少女。ずりずりと腕の力で這いながら、ここまでまた戻ってきた。
幼い手が触れる。化け物じみた尾に。醜い紋章を刻む頬に。
｢ほら、へーき｣
だから、あなたは、悪くない。
へらりと笑う少女に、湧き上がるのは殺意だった。
殺せばいい。こんな小さな身体。最初からそうすべきだった。今だって簡単に殺せるというのに。
狂戦士が聞いて呆れる。
｢······救いようのない、お人好しめ｣
呟きは、ただの八つ当たりだ。
もう認めざるを得ない。
クー・フーリン【オルタ】は、もう以前と同じ存在にはかえれない。彼女が、何かを変えた。
伸ばした腕を、Aは拒まない。腫れて熱を持つ肌に鋭く伸びた爪が触れても、痛いとすら言わない。
無防備に、無条件に、ただ彼女は受け入れる。
狂王は、脆く小さなからだを、初めて己の意思で抱き寄せた。
｢くー······？？｣
拙い呼び名に笑ってしまう。触れた箇所から自然と送り込まれはじめる魔力。今度は拒まずに、さきほどの感覚を辿ってノイズの向こうへ意識を尖らせた。
疑問ではあった。
この世界にただひとり生きる少女の存在。
しかし、時が経つにつれて疑問を無視するようになっていた。
理由は単純だ。考えても詮無いと決めつけた思考の放棄ではなく。
そうすることで、少女とこの世界に、必要以上に踏み込みたくなかった。
無意識の下で狂王は｢長くここにはいられない｣と知っていたのだから。
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皐摩(プロフ) - もう…！！好き過ぎる…！最高すぎる作品ですうううう！！！！ (2019年2月28日 3時) (
レス) id: 8434b91720 (このIDを非表示/違反報告)
Sandoriyon0000(さんどりおん)(プロフ) - 火星さん» 感想とお祝いありがとうございます！このままBADエンドでもいいんじゃないかと途中で悪魔が囁いてきましたが、たぶん狂王の宝具で木っ端微塵にされたんだと思います（笑）続編の方も頑張ります、応援ありがとうございます！ (2017年12月28日 21時) (レス) id: 1352ea05b0 (このIDを非表示/違反報告)
火星 - 完結おめでとうございます。途中から主人公が消失するのかと思ってヒヤヒヤしていましたが、最後は狂王と主人公がちゃんと幸せそうでよかったです。続編でも頑張ってください、応援しています! (2017年12月27日 10時) (レス) id: 9638a5e671 (このIDを非表示/違反報告)
Sandoriyon0000(さんどりおん)(プロフ) - 川瀬さん» ありがとうございます！実は川瀬さんの作品、私も陰ながらこっそり読ませていただいています。今は無き理想郷のランスロットと主人公ちゃんのやり取りが微笑ましくて何回も見てます。続編では幼女とイチャイチャ()を考えていますのでよければよろしくお願いします！ (2017年12月13日 23時) (レス) id: 1352ea05b0 (このIDを非表示/違反報告)
Sandoriyon0000(さんどりおん)(プロフ) - 鏡花・オルタさん» ありがとうございます！コンセプトが最後は絶対ハッピーエンド！(漠然)だったので、この結末に落ち着けたことに自分でもホッとしています。続編では優しいオルタと優しい世界を目指します。またよければよろしくお願いします！ (2017年12月13日 22時) (レス) id: 1352ea05b0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Sandoriyon0000 | 作成日時：2017年10月21日 3時
