夜の国

きよしこの夜 【2】 ページ13

｢師匠！｣
｢この世の終わりみたいな顔しやがって、だらしねぇ｣

やれやれと、呆れた顔つきで広い肩を下げる男は、たったひとり、師と仰ぐサーヴァント。
【キャスター】のクー・フーリン。第一の特異点からこれまでを共に駆け抜けてきた英霊だ。

戦闘、マスターとしての覚悟、魔術のなんたるか、英霊達との付き合い方ーーーー少女は大切な基礎を彼から学んだ。

従来のように聖杯に導かれたわけでも、魔術の研鑽を重ねてきたわけでもない。戦争を知らない自分(ただの一般人)が、人類の最後の砦となったのだと告げられた時は途方に暮れた。
炎に包まれたカルデアから逃げるようにレイシフトした場所ですらも、絶望の続きのように暗く燃え盛っていた。息付く間もなく容赦なく襲いかかるサーヴァント。マシュがその華奢な身体を賭して、守ろうとしてくれている。それなのに、自分は。
嫌だ、ダメだ。
こんなところで、失ってたまるものか。
迫る白刃。喪失の予感。

こんなのは、嫌だーーーーーー

祈るような思いで叫ぶ声に応えたかのように、彼は現れた。そして圧倒的な力を持って敵を屠ってみせた。またたく間に形勢は逆転し、敵のサーヴァントが一方的に傷を負う。
これが、サーヴァント。
これが、英霊。
その戦闘に、いっそ見惚れたほどだ。
すべてが終わっても座り込んでいると、やれやれとーーーー今と同じように肩を竦めて、それでも手を差し伸べてくれた。

彼がいなければ、マスターとしての自分はいない。ハッキリといえる。あの出会いが【生きる】か【死ぬ】かの分岐点となったのだと。

以来、少女はキャスターを【師匠】と呼んでいる。最初こそ微妙な顔つきでいたキャスターだったが、少女が本当に何も知らないことを知ると、その大きな掌で思い切り背を叩いてこう言った。

｢女だからって遠慮容赦はしねぇぞ。覚悟しろ｣

叩かれた背は痛くて涙が滲んだが、励まされているのだと感じた。感じるぬくもりは支えのようで、張り詰めた心が解れて。どうしようもなくなって、子どものように大泣きした話は、いったい誰から漏れたか、カルデアの皆が知るところだ。
以降、キャスターには言葉通り本当に割と容赦なくしごかれたわけだけれど。泣かされたことも多々あるわけだけれど。
けれど、最初に出会ったサーヴァントが、彼でよかった。いつだって、彼は、少女の導き手だった。

｢オルタの居場所を、知りたいんです！｣

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