【#コンパス】この心は【アダム＝ユーリエフ】 (ページ14)

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｢あれ、お兄さんだぁれ？｣

三人の中の唯一の女の子がこちらに気づいて疑問の声をあげる。女の子の声を聞いて、残りの男の子たちもアダムを見た。

「見たことない人だ」
「？誰？」

先程まで蚊帳の外だったのに、急に蚊帳の中に引っ張りこまれて、少しだけ狼狽えた。
誰だ、と聞かれたわけだし、隠しているわけでもないし、アダムは彼らに名を告げた。

「私はセントグラード騎士団に所属している、アダム＝ユーリエフと申します」

別段、変なことは言っていないはずだ。しかし、彼の名前を聞いた途端、騒がしかった子供たちがしん、と静かになった。

「………………？」
「……お兄さん、アダムってお名前なの？」

一番小さい男の子が聞いた。肯定の意味を込めて頷くと、三人はお互いの顔を見合わせたあと、

『すごい！』

と揃えて声を上げた。

「お兄さん、アダムって言うんだ！いいなー！」
「すごい、素敵だね！」
「騎士って言ったよね？アダムはやっぱり騎士なんだ！」

戸惑わずにはいられない。
子供たちはAに駆け寄ってきた時よりも輝く瞳でアダムを見ている。ただ、名乗っただけだと言うのに。
訳が分からなくて、困ってあたりを見回す。
ーーあれ？
Aさまは？

いつの間にやら、Aの姿が消えていた。
ーー何処に……。
探そうと数センチ先に足を伸ばしたとき、子供たちが、一斉にコートを掴んだ。Aを探しに行くのを子供たちが許してくれないようだ。
「アダムお兄さん！どこ行くの？」
「アダムさん、外国の人だよね？ね、ね、お話聞かせて？」
ーー………どうしよう。

子供の扱いには慣れていない。適当にあしらうわけにも行かないだろうし、だからと言ってこのままで良いかと言われればそんなことはないだろう。
アダムは思わず溜息が零れそうになった。
が、(当の護衛対象がいなくとも)一応仕事中の身だ。そんなことは許されない。

「あの……」
「上着もふもふだ！これなにで出来てるの？」
「わー！本当だ。暑くないの？」
「申し訳ないのですが………」
「髪留め綺麗だね！でも、男の人が付けてるの、初めて見た」
「肌白い……。ちゃんと生きてる？」

駄目だ、話を聞いてくれそうにない。
子供たちは自分(外からやって来た人)への疑問を抱いては吐き出し、自分の好奇心を満たすことに夢中だ。
幼い頃から必死に習ってきた騎士道も、子供たちの好奇心の前には全く意味をなさない。