【#コンパス】この心は【アダム＝ユーリエフ】 (ページ12)

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10,サンタ・フィリーチェ教会（1）ページ12

「もう、いいです。アダムさま、これから私がすること、止めないでください、大きな声とか出さないで」

諦めた。
あまり人と会話することが少ないので、この人を退ける会話術は身についていないし、そもそももうネタ切れだ。騎士である彼の前でとんでもなく粗相なことをすることになるが、仕方ないことだと踏ん切りを付けてしまおう。
アダムは不思議そうな顔をしたがすぐに分かりました、と頷いた。

ところ変わって、二人は城の外にいた。詳しく言うと、城の中庭で、国王の私室の下だ。

こんなところに来て何を？ここが中庭だと言うことしか知らないアダムは隣に居る自分よりも幾分か小さい少年を見た。
Aの手には先程自室に戻ってわざわざ取ってきたなにかよく分からない沢山突起の付いた四角い機械が握られている。

「あそこに空色の紐のついたバルコニーのある部屋あるのわかりますか？」
「ええ、まあ」
「あれ、国王エドレイの私室です」
「？？それが何か………」
「アダムさま、私が合図したら、走って私に付いてきてください」

訳もわからないまま、騎士はそれを了承した。
Aは手に持ったその機械をの突起のひとつをかちり、と押して口元まで持ってくると、低い声で

「おい、できるだけすぐに秘密基地に来ないとお前の恥ずかしい過去を新聞に載せてばら撒く」

…………………！？
唐突な脅しにアダムは勢いよく視線を隣に向けた。当の彼はそんなこと気にも止めず、足元に落ちていた手頃な石を拾って、あろう事か国王の私室の窓に向かって投げつけた。

「ちょ、……！」

投げられた石とそれを投げた本人を交互に見る。石は見事なコントロールで、狙った部屋の窓にぶつかり、軽い音を立ててバルコニーに落ちた。
次に、先程の機械を同じように放り投げる。当然、同じ窓にぶつかり、バルコニーに落ちる。

「よしっ」
「よしって……一体何を……」
「走ってください」

ガッツポーズをした宮廷化学者見習い。次の瞬間にはその場から走り出す。アダムは困惑を拭えないまま、Aに付いていく他なかった。