眠れない夜には ページ41
ああ、フラフラする。
久々の徹夜だったので身体の負担が多かったのだろうか。
……歳か?
そんなこと考えながら痛む左腕を抑えた。
…この血はまだ止まらないのか。
あとから新たに伝わった仕事は、貿易港での麻薬取締に関するものだった。
マトリが任務に当たっていたのだが、どうやら向こうも苦戦中らしい。
急遽出向いた公安はその場で取引の連中と抗争になり、俺もこうして多少怪我を負ってしまった。
まだまだ若いつもりでいたけど…やっぱり組織の件が片付いてから平和ボケをしているな。
警察病院に向かった部下たちをよそに、俺はそのまま直帰することにした。
こんなフラフラで危ないながらも車を何とか運転し、いつも使ってる駐車場からアパートまでの短い道のりを歩く。
風見には無論警察病院を勧められた。
でも断った。
家でも処置くらいできるし…それに、夜はAが心配だ。
同じベッドで寝てる時こそいいものの、朝早く俺が先にベッドを抜けた時…要するに彼女が独りで眠る時、たまにではあるが苦しそうな顔をする。
組織時代も朝起こす際にちょくちょく見かけたが、どうやら何かしらの悪い夢を見ているようなのだ。
それも、うなされながらもがき苦しむほどの酷い悪夢を。
そんな彼女を1番近くで見ているからこそ彼女の『おやすみ』は俺にとって特別であり、彼女の安眠は俺の願望になりつつある。
他人の夢の善し悪しを願うなんて、摩訶不思議な話だ。
いつもの何倍も長く感じた帰路だが、ようやくたどり着いた家に安堵する。
キーで扉をそっと開け、足音も潜めてゆっくり奥の部屋に入る。
ハロはよく眠っていて、俺にはまったく気が付かなかった。
そしていつものベッドの上…あどけない顔でスヤスヤと眠る彼女を見つけた瞬間、何故か自分も肩の力が抜けたかのようにそこに崩れた。
俺の気配で目覚めないくらいには彼女も立派に平和ボケしてやがる。
自分の手はまだ少し血が着いていたけどそんなこと気にもせず。
眠っている彼女の小さな手をそっと掴み、自分の手で覆う。
暖かい。
良かった。脈も安定してるし…よく眠れてる。
目にかかる髪を耳にかけ、その頬を撫でた。
幸い、手の血は乾いていて彼女につかなかった。
…でも、ああ。
やっぱり…ちょっとフラフラする。
彼女の手を掴んだまま、俺はその場でベッドに頭だけを預ける形で意識を手放した。
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作者名:cherry* | 作成日時:2022年8月23日 11時