Prolog ページ1
「広…、」
高層マンションの上層ワンフロアを贅沢に使ったその広い部屋。
圧倒的な開放感と窓から見えるとてつもない夜景を前に思わずそんな声が出た。
『あぁちょっと!私の家なんだから汚さないで』
不服だ!と言わんばかりに後方から声が飛ぶ。
周りを背の高い男3人に囲われながらも自分の位置と立場を主張するように、自分とスコッチを押しのけて彼女は前に出てきた。
『広いでしょ?気に入った?』
「キッチンまでちゃんとある…。ここ、本当にオレ達も借りちゃっていいのか?」
『まあ、1人じゃ広すぎるから…って、ちょっとライ!タバコはベランダに出て』
「…騒がしいな」
『…はぁ?』
「まぁまぁ、初日から喧嘩するなって…」
『アンタもよスコッチ!タバコ吸う時だけは外に出て』
「分かってる分かってる」
まだ入口に立ち止まったままの自分を放って話が進む。
こうやって背伸びするように騒ぐ彼女は、任務の時よりずっと年相応に若く見えた。
『…何突っ立ってんのバーボン。あ、部屋は廊下の奥から私、ライ、バーボン、スコッチで…』
「…あ、ああ」
『聞いてる?』
「どうした?バーボン」
あまりにも歯切れの悪い俺の返事にヒロが心配そうな声を出した。
油断してはいけない。
肩入れしてはいけない。
誰よりもそれを分かっているはずなのに、彼女のその心を開ききっているような笑顔には翻弄されてしまっている気がする。
『…疲れてる?早く寝た方が良いんじゃない、明日からまだ任務があるんだから』
「…あ、いや……ありがとうございます」
『私には別にかしこまらなくても良いわ。goodnight、いい夢を。』
ささっと送り出した彼女に背を向ける。
確かに疲れもあるかもしれない。でもやはり組織の有力者である彼女に対してどこか警戒心を抱いていたからこそ、それを一気に崩されたことに対して驚きを隠せないのだ。
バレンシア。
そのカクテルの酒言葉のようにジンの【お気に入り】である彼女が、まさかこんなにも気さくな人だとは思わなかった。
、
廊下を進み手前から2番目の扉を明け、家具しかない殺風景なそこに荷物を投げる。
そのまま自分の身もふかふかのベットに投げるとすぐに眠気がやってきた。
幸せな夢なんて見なくていいから、せめて安眠を
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作者名:cherry* | 作成日時:2022年8月23日 11時