いえ、パンダです2【降谷零】 (ページ10)

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side:降谷零

すやすやと寝息を立てるあどけない寝顔

細い腕に繋がれた痛々しい点滴と目の下に濃く染み付いた隈

「……良かった、」

警察庁でAが倒れた時は本当に焦った

大慌てで警察病院に直行して告げられた診断は過労だった

続けて明らかになったのは真新しい左腕の傷

丁寧に処置されていて酷いことにはならないが、傷跡は少々残りそうとの事だった

まさかと思い風見にマトリとの連絡を取ってもらい、発覚したのは数時間前の抗争について

この子はその時マトリの協力の元、俺たちに内緒で犯人らと同じ会場にて潜入捜査を行っていたらしい

おそらくその時の流れ弾にあたったのだろう

上司としても、この子を大切に思う1人の男としても、今日のAの行動一つ一つが腹立たしかった

この子は優れている

優れているのに周りを指揮し人を使う事を躊躇う

だからこそ真っ先に犠牲になるのは彼女自身

そのおかげで風見やヒロのような部下は公安としての危険な仕事は随分減っている

「阿呆、今回ばかりは無茶が祟ったな」

その頬をするりと撫でる

放って置けないのだ

危なっかしい所も、情に厚い癖に自己犠牲な一面がある所も

全部が全部、放っておけない

意識のない彼女を抱えて慌てる数十分前の自分を思い出して苦笑する

こんな所を風見やコナンくん……ましてや赤井なんかに見られていたら溜まったものでは無い

「……怖かったんだ、多分な」

……ああそうだ

多分それほどまでに俺はこの子を大切に思っている

それは上司としてだけでは無い

恋なんて言葉は幼少期に置いてきたつもりだった

いついかなる時も未来の保証ができないこの仕事において、そんな雑念は余計でしかないと思うのだ

それでも……

「…いなくなって欲しくは……ない」

愛おしくて愛おしくたまらない

触れたいし甘やかしたい

失いたくはない

それを恋や愛と呼ばずしてなんと呼ぶのだろう

「とんだ意気地無しだな、」

失いそうになって初めてその大切さに気づくなんて言うけど、多分俺は蓋をしてきただけなんだ

ずっと前からこの思いはあった

でも隠そうとしていたんだ

「……馬鹿」

伝えたい

今はただそんなむず痒さを眠る彼女にぶつけることしか出来なかった