いえ、パンダです2【降谷零】 (ページ35)

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普段はパソコンでハッキングをしているが、今回使っているのはスマホに近い端末だ

セキュリティシステムを解除するためには、まずそのパスコードを盗んで書き換えなければならない

これがまた至難の業である

画面下半分に表示されたキーボードに指を滑らせる

パソコンのキーボードと違って、フリック入力で画面にタップするのだがこれがまた慣れず難しい

スピードが遅いと、自立した高度のセキュリティシステムはどんどん厳重にコードを作り替えて行ってしまう

要は、スピードが命

『零さんは爆弾解除をそのまま。…私は扉を開けます』

「……分かった」

長めの爪でコツコツと画面をタップする音が響く

分厚い扉を挟んでいるはずなのに、中では工具を使って爆弾を解体しコードを切る音が聞こえる

だからきっと、零さんにも私の端末の音は聞こえてるんだろう

ここにいる

壁を挟んで、隣に

無駄な言葉は交わさない

ただ目の前のそれにだけ集中する

、

、

いつもならもっと早く……いや、もうとっくにハッキングなんて終わらせているであろう時間だ

なのになんで……

なんでこんなにも手こずってるんだ

ガチャっと重そうな工具の音がした

何かあったのか？と思ったけど、自分の仕事を疎かにはできないので画面から目を離さず聞き耳を立てる

扉の奥から、掠れた声がした

「……もう10分をきった。約束してくれ」

『……何をです？』

「残り3分。……3分をきったら有無を言わず逃げろ」

『……嫌』

「上司命令だ。これは逆らえない」

普段よりずっと厳しく低く鋭い声

全て……全て私に刺さる

『……』

「返事は」

『…………了解』

「あぁ、頼む」

再びガチャっと工具の音がした

こんな時に…いや、こんな時だからこそ
「恋人」と言う関係より「上司と部活」を持ち出す零さんは狡い

私が手荷物端末からはピピッと音がして、何度目かの侵入失敗が告げられる

悔しくて悔しくて涙が出そうだった

なぜこんな時に私は役に立てないのだろうか

それでももう一度、と端末はキーボード画面に移り、私の指はコツコツと画面をフリックし始める

無意識にパスコードの書き換えを進めようとする身体に私の頭が追いつかない

折れちゃいけないんだ

助けられる可能性があるなら、私は折れちゃいけないんだ