マネージャー ページ40
結城side
ビチャ、ビチャ、パチャ、パチャ。
こんなオノマトペを奏ながら、うちは事務所まで全力疾走していた。
いや、ちょっとだけ盛った。割と頑張って走っていたけど全力ではなかった。
それなりに雨が降ってるから、必然的に傘を差さないといけないある日。
こういう日に限ってお仕事があるうちは、遅刻とセーフをギリギリのラインを彷徨っていた。
もう傘捨てようかな。もはや、畳んで走った方が早い気してきたわ。
息を切らしながら先を急いでいると、”ニャー”という鳴き声が聞こえた。
思わずパッと足を止めて辺りを見回すと、段ボールの中に子猫が入っているのが見えた。
捨て猫、か。近年捨てられる動物増えてるよなぁと思いながら、うちは段ボールの上に傘を置いた。
『お仕事の関係で事務所に連れて行くことは出来んのよ、ごめんな』
持っていたタオルを鞄から取り出して子猫に被せた後、うちは再び雨の中駆けだした。
事務所についてマネージャーの佐藤さんと合流したとき、
一番最初に言われた言葉が「馬鹿じゃないですか」やった。
『そこは普通”大丈夫ですか”とか、”どうしたんですか”やないんですか』
「何でずぶ濡れなのか当てましょうか。その辺に傘を捨ててきたからですよね」
『わぁ、凄い。よく分かりましたね』
流石、敏腕マネージャー。うちのことをよく分かってはりますわ。
でも、捨てるやなくてせめて置いてくるって表現してほしかった。
他人の口から”捨てる”って聞くと、めっちゃ人聞き悪い。
「2時間説教コースがご所望でしたら今すぐやりますが、如何なさいますか」
『すみませんでした。反省してます。これからやらないように気を付けます』
「宜しい。早くシャワールームに行って体を温めてきてください」
”着替えはこちらで用意します”という言葉を聞いたうちは、素早く移動した。
人間、誰しも逆らえない相手っておるよな。
怒られたくはないなぁと思いながら体を温めてタオルで髪を拭いていると、
白のスウェットに黒のスキニーが脱衣ボックスに置かれてあるのが見えた。
……随分と大きいけど、誰のなんやろう。
まぁ、いいやと適当に考えて服を着てから、シャワールームを出た。
すると、こちらに向かって歩いてくる佐藤さんが見えた。
「……良かった。それ、着れたんですね」
『かなりサイズが合わないですけどね。これ、誰の服なんですか?』
「私です」
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作者名：雨萩さくり | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/n15a76543b1
作成日時：2024年3月16日 13時
