副社長 ページ23
「結城!」
『はい!……ん!?』
事務所の廊下を一人で歩いてたら、突然背後から声を掛けられた。
反射的に大きな声で返事をしながら後ろを向くと、見覚えのある人がこちらに向かって歩いていた。
「嘘……」と声を洩らすと、「嘘じゃないよ」と笑われてしまった。
「確かに直接会うのは久々だけど、人を幽霊みたいな扱いしないでくれ」
『ま、まさか滝沢さんに会えるなんて思わないやないですか』
端正な顔立ち、周りからの厚い人望、恐ろしいぐらいにキレる脳。
誰もが羨ましがるスペックを持ち合わせている、うちの事務所のスーパー副社長さんだ。
撮影日に遭遇するなんて珍しいなと考えていると、彼は「結城も大人になったんだな」と呟いた。
『そう、ですか?』
滝沢「あぁ。昔は”滝沢くん”って呼んでくれてたのに、今は”滝沢さん”になってる」
『それは、うちの方が圧倒的に年下やからであって……!!』
滝沢「俺と年が近い潤たちのことは名前で呼んでるのに?」
痛いところを突かれ、うちは言葉に詰まってしまった。
確かに名前で呼ばせて頂いてるけど……潤くんたちと滝沢さんはちょっと立場が違うというか、
気軽に呼んでもええんかなという疑問がある。
ここは今まで通り”滝沢くん”って呼んだ方がええんかな!?
でも、事務所の副社長を同期でもないうちが気安く呼んだら不敬とかに問われるんちゃう!?
何て答えたら良いか分からずあわあわしていると、頭上から吹き出す音が聞こえた。
滝沢「からかってごめん。そういう素直なところは変わんないんだな」
『……滝沢さんも、ドSなところはお変わりないみたいですね』
悔し交じりに同じようにイジると、滝沢さんは軽く目を見開いた後、クスッと笑みを零した。
「言うようになったな」と嬉しそうに口角を上げる滝沢さん。
言われっぱなしの結城ちゃんやないってことですよ。
滝沢「あ、仕事が入ってるからもう行くな。引き留めて悪い。今日は会えて嬉しかったよ」
『うちも久々にお会いできて嬉しかったです!』
滝沢さんは手を振りながら「次プライベートで会うときは”くん付け”の方でよろしく」と言って、
颯爽と立ち去って行った。何か、滝沢さんがやると何でもカッコよく見えるわ……。
これが世に言う”タッキーマジックか”と適当なことを考えつつ、うちも歩き出した。
『＿＿＿滝沢くん、か。次にお会いしたときはまたそう呼べるとええな』
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作者名：雨萩さくり | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/n15a76543b1
作成日時：2024年3月16日 13時
