第3章 お近付きのしるしに毒リンゴ ページ12
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日中、鼓膜を絶えず刺激していた蝉の声も段々と落ち着き始め、ゆっくりと過ごしやすい気候に移ろいつつある今日この頃。
今は目の前の肉が焼ける音を聞きながら、ひたすらにトングを動かしていた。
「ノブさん彼女とか居ないんですか？」
「いないいない」
「えー意外！ でもモテそうっスね！」
「別に、普通だって」
プロジェクトがひと段落し、大学の後輩たちとお疲れ様会の最中。
当然のように始まった色恋沙汰の話題に、俺は未だ一度も首を縦に振ってはいなかった。
……あの日、彼女と二人で合コンを抜け、そのまま帰るつもりだったのが二人で飲み直すことになった日。
あれから何か変わったことを挙げるならば、俺は彼女のことを下の名前で呼ぶようになった事と、彼女のタメ口の割合が若干増えた事……位か。
関係性は未だに『定期を落とした人と拾った人』のままだ。
あの日は近くのバーで彼女の門限ギリギリまで飲み直して、駅まで行って、そのまま解散した。
タクシーを呼ぶから大丈夫だと言うので最寄りまで、ひいては家まで送ることはしなかったから、12時を少し過ぎた頃『家着きました』とメッセージが送られてきたのを見て心底安心したのを覚えている。
……彼氏でもないのに。
それ以降も相変わらず、今日は大学でこんな講義を受けたとか、実験の結果がどうだったとか、こんな話を知ってるかだとか、そんなやりとりをするばかり。
時折俺がオススメの店を紹介して、行けば彼女から感想が来る程度。
あの日の帰りに感じたような、甘ったるい空気はあれっきりだ。
アルコールに見せられていた幻想だったのかもしれない、とさえ思うほどに。
ただ、カメラロールに残った特別上手くもない星空の写真だけが、あれは幻想ではないと告げている。
……飲み直した店を出たあと、俺のスマホで彼女がシャッターを切った写真。
街の灯りのせいでなんだかよく分からない、愛知の夜空と隅にビルの頭が映った写真。
俺はこの写真をどうしても消せないでいた。
消してしまえばそれこそ、あの日の出来事も泡沫のように消えてしまいそうで。
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じばくスイッチ(プロフ) - ユメさん» そんな風に思って頂けたら……というコメントを頂戴して驚きと共に大変嬉しいです。ありがとうございます。きっと青春って甘くてきらきらしたものばかりじゃないよなぁという思いで書いておりました。こちらこそ、読んでくださり本当にありがとうございます。 (2023年3月10日 7時) (
レス) id: 3711322760 (このIDを非表示/違反報告)
ユメ(プロフ) - ほんの少し何かが違っていれば結ばれていたようで、でも何度やり直しても同じ結末を辿りそうな二人の関係が本当に切なくて美しくて、こんなに素敵な作品を世に出してくださった作者様に感謝です。 (2023年3月9日 21時) (レス) @page26 id: c6aaf0c2c2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：じばくスイッチ | 作成日時：2023年1月3日 23時
