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「乾ってわたしのこと好きだよね？」
「どーー見ても好きでしょ」
何をそんな当たり前のことを、と白米を頬張りながら答える向かいのノブくん。それに対してわたしは一層顔を歪める。
お昼休憩。たまたま一緒になった同期の彼にそんな質問をしてみればスパッと即答されてしまった。
……第三者から見てもそうならば、今朝のあの態度はなんなんだ。
「本人に聞くのが一番早いと思うよ？」
「それはそうなんだけどさぁ……」
だって、不安じゃない。つい昨日、駅までの帰り道で好きだと言われたあの出来事は、実は夢だったんじゃないかって。
付き合っていると思っているのがわたしだけ、なんてことがあったら恥ずかしすぎてどうにかなりそうだ。
ーー昨日言った好き、ってあれどういう意味？
ーーえ？ 猫のことだけど。逆になんのことだと思ったの？
……とか。乾ならあり得なくも無い。
未だ包みを解いていないお弁当箱は、結び目に手をかけられることなくその場に鎮座していた。
その間も刻々と休憩の時間は過ぎていく。午後の仕事に集中するため、頭を切り替えようとお弁当に手を掛けた時だった。
「あ」
ノブくんがわたしの後ろを見て声を漏らす。それにつられて振り向けば、そこには今朝、わたしを見るなり部屋を出て行った彼の姿があった。
「あ……」
今度は乾が声を漏らす。なんだ。あ、って。
わたしはお弁当にかけていた手を伸ばし、休憩室のドアの前で立ち尽くす手首を掴む。触れた途端一瞬ピクリと引かれかけた手は、わたしの顔を見るなり大人しくその場にとどまった。
「乾さ、わたしのこと好き？ だよね？」
「うん、好き。……好きだよ」
「……。」
なんとまぁ、あっさり。わたしの目を見ていうものだから。聞いたこちらが面食らってしまった。
それなら昨日の「好き」も、勘違いなんかじゃなくわたし宛だった訳で。
「じゃあなんで、今朝」
「今朝……？ ……あー、あれは」
わたしが掴んでいない左手で顔半分を覆った彼はフイ、と視線を逸らす。
それでも尚、わたしは彼の顔に穴が開くんじゃ無いかというほど、その綺麗な横顔を見つめていた。
するとだんだんと、隠れていない頬が朱色に染まっていく。……これは？ 一体どういうこと？
「……ちょ待って、これガチで言わなきゃだめ？」
「うん。だってほら、口先だけならなんとでも言えるでしょう？」
君が口先だけの軽い男だなんて、思って居るわけじゃ無いけれど。
ずれていた視線が再び絡み合う。メガネの奥の瞳は、しっかりとわたしを見ていた。
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作者名：じばくスイッチ | 作成日時：2022年8月6日 21時
