【9K】酸いも甘いもたいらげて Ⅱ《短編集》 (ページ15)

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「じゃあ今から、問ちゃんのすきなことしよう」

「……なんですか？」

照明のリモコンに手を伸ばしながら。
わたしたちを包む空気に仄かな甘さが漂う。

「クイズしよう」

「………クイズ？」

思っていた答えと違ったのか、ぱちぱちとまばたきをする顔にまたしても口元が緩む。

自分で言うのもなんだが、今日のわたしは意地が悪い。
ぽかんとした彼をそのままに口を開いた。

「問題です。……今、わたしがしたい事は何でしょう？」

「それって、」

消灯ボタンをおすと、何かを答えさせる間もなく頬を引き寄せた。彼の柔らかな前髪が額をくすぐる。

ややあって引き剥がされたゆびさきは、シーツにしっかりと縫いとめられた。

「正解は……問ちゃんと同じこと」

言っておきながら照れくさくて「きっとね」と付け加えると、焦らすように指の付け根の間を行き来していた彼の指は、ギュッとわたしの手を握り込んだ。

「……いいんですか？そんな事言っちゃって」

「いいよ？問になら、なにされても」

「はぁーあ」

わたしの上で零される溜め息に熱が混ざる。
ベタすぎる殺し文句だと自分でも思った。でもだって、実際そうなんだから仕方ない。

段々と桜の蕾が膨らみだした冬と春の狭間。

くっつくために、もう寒さを理由にしなくても。

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開花迄のモラトリアム

初めて自分の明確な意思で君の手に触れた日。
あの頃はまだ、蜩が鳴いていた。