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「……。」
「……、肩に葉っぱ乗ってたよ」
「……え？」
私の肩口からヤマモモの葉を摘み上げた山本さんは、その葉柄を親指と人差し指で持ってくるくると回す。
あっけに取られた私はポカンと口を開けて、一拍置いてから自分の勘違いに気がついた。……恥ずかしい。
「ありがとうございます」
「いいえ」
それでも尚、私の顔を見つめてくる彼に、どうしたのかと小首を傾げる。
途端、向日葵の付いた麦わら帽子が風に攫われそうになり。
あ、と視線をずらして帽子を押さえようとした、瞬間に。
「──……」
「えっ」
私の手の上から押さえられた帽子。
プラスチックのコップがアスファルトに落ちる音がした。
間に彼の人差し指一本だけを挟んで、触れ合う寸前の唇。絡み合う視線。
海から陸に向かって吹く海風は、私の白いワンピースと彼の柄シャツの裾を翻す。
「みんなには、内緒ね？」
まるで子供に内緒話を告げるかのように。
お互いの間を隔てていた指が
「ん……」
「……。」
目を瞑れば、そこにある筈の漣の音、風の音、蝉の声、衣服が靡く音──全部が聞こえるはずなのに、自分の唇に触れた、たった一つに全神経が集中してしまって。
「山本ー！ Aー！ そろそろ行くよーー！」
姿が見えないほど遠くから私たちを呼ぶ福良さんの声で、漸く音のある世界に帰ってきた。
「はーい！！ 今行きまーす！」
私の肩を抱いたまま、大声で山本さんが答えて。
「Aちゃん、行こっか」
まるで今の出来事が夢であったかのように、目の前の彼はけろりと笑う。
今のは、私に都合の良すぎる白昼夢……？
そう思いもしたけれど。
堤防に残ったサイダーのペットボトルと、何より彼が拾い上げたプラスチックのコップが、これは現実だと告げている。
海風を背中に受けつつ、彼の半歩後ろを歩く。
歩きながら、その背にずっと伝えたかった2文字を書いてみれば、振り返って笑った彼に「僕も」と返された。
目の前で弾けた嬉しそうな笑顔に、麦わら帽子を深く被り直す。
戻り道の傍らに咲いたひまわりが一本、こちらを向いていた。
まるで、彼が太陽のような人だと分かっているかのようだった。
⿴⿻⿸
夏色サイダー
──甘くて、ちょっと刺激的。
そんな毎日になる予感がするの。
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作者名：じばくスイッチ | 作成日時：2022年8月6日 21時
