二話 ページ3
何かに頬を叩かれる感触で目を覚ました僕は、ぼやける目を擦って顔を上げた。
「此処は････」
目の前に聳え立つ大きな門。
辺りを見れば森。
そして、無効の方まで続く塀。
「え、何処？」
「おはようございます、A様！」
何処からか声が聞こえ、辺りを見渡す。
けれど、何処にも声の主らしい人影はない。
「下です！ 下を見てください！」
「下？」
言われた通り視線を下に下げると、黄色いふわふわした狐が。
え、狐？
「初めましてA様！ 私はこの本丸の案内を任されております、こんのすけと申します！どうぞ、宜しくお願い致します！」
狐が話してる？
人間の言葉を？
これは、夢か？
「あ、ご丁寧にどうも。雪白Aです。宜しくお願いします」
取り敢えず挨拶をしてみるものの、状況理解が追いつかない、僕の頭。
「では、早速本丸の中へと入りましょうか！」
「全く状況理解出来てない、この状況で入るんですか？」
「はい！ 説明は歩きながら致します！」
断る権利など、僕には存在しない。と言わんばかりの話の進み具合にため息が漏れる。
これは、もはや誘拐だ。
見た目キュートな狐が人間の言葉を話す。という普通じゃない状況下に加えて、誘拐、からの遭難。
最悪だ。
「1つ質問してもいいかな。こんのすけさん」
「何なりと！」
「帰るって選択肢を用意して貰えたりするのかな？」
「それは無理ですね！」
「ですよね････」
しっぽをフリフリして元気な声で想像通りの返答を返してくれるこんのすけ。
その姿をチラリと見て、静かにため息をつく。
帰れないなら入るしかないか。
大きな門を見上げて、僕は残された選択肢に従う覚悟を決める。
仕方ない。
扉に近づき、力いっぱい押してみる。
すると、扉は重く低い音を鳴らしながら、開いた。
「お邪魔しま････す」
外観とはうってかわって、ボロボロの屋敷。
手入れされていない庭。
枯れた木々。
地割れしている足元。
僕は、敷居を跨いでいた足を一度戻し、後ろに下がった。
「こんのすけさん」
「はい。」
「これが本丸ですか？ お化け屋敷に見えたんですが？」
「････。私も此処まで酷いとは思っていませんでした。」
僕達の間に流れる沈黙。
あぁ、本当に何処までも最悪じゃないか。
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