10話 ページ10
編集長命令と言って鞄を渡せば、西岡は大人しく受け取った。
そして、家の場所を聞くと偶然にも俺と同じマンションの様で、必然的に二人で帰ることとなった。
大した会話もない。
けれど、隣を歩く西岡はやたらソワソワしている。
小動物が隣に居るような感覚に、不思議と懐かしさを感じる。
気がつけばマンションへと着いていた俺達。
「おい、西岡」
「はい」
「お前家の部屋番号」
エントランスを抜ける最中に聞くと、西岡は一呼吸置いて「1200です････」答えた。
こんな偶然があるんだな。
そう言えば1年前の小野寺とも偶然が重なったっけな。
「何だ隣かよ。ならこっちだ、早く来い」
前を歩く俺の後ろをとぼとぼと着いてくる。
俺と西岡の部屋番号が隣合う扉の前に着き振り返る。
「此処だな。俺はそっちだから」
「あ、はい。ありがとうございました」
礼儀正しく頭を下げた西岡は、鞄を漁る。
だが、その探る手が止まり、少しずつ顔色が悪くなる。
「何だ。入らないのか」
「晩御飯が無いのを忘れていたので先に買いに行こうかと」
「あっそ。明日遅刻すんなよ」
「はい。お疲れ様でした」
先に部屋に入り、扉に凭れ掛かる。
少し間を置いて、西岡の声が聞こえてきた。
聞き耳をたてるに母親と話しているようだ。
数分間の電話は穏やかに終わったが、内容を纏めると引越しを手伝った母親が鍵を持って帰り、現在部屋に入る手段がない。とのことだった。
かなり動揺しているのか、俺が電話途中に部屋を出ても気づく様子はなかった。
「兎に角ホテル探すか･･･」((ﾎﾞｿｯ
小さく呟いた西岡は、何処かへ連絡をしだす。
俺はそんな西岡の頭を掴み、有無も言わせぬ勢いで部屋へと招いた。
その後、玄関先で言っていた俺の好きなやつについての話を聞くため話をしたが、分かりやすくビビっている西岡に笑いが込上げる。
居心地が悪いです。と顔に書いてある。
そしてそのあと、ホテルに泊まると言い出し、これ以上この話をすると出ていくと思ったので、俺は途中で話を切り上げた。
先に風呂に行くよう促し、交代で俺も入る。
シャワーを浴びながら高校の時の事を思いだす。
小野寺が俺の前から姿を消し、家庭内がごたついた時のことを。
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