【文スト】ゼロの起点 (ページ33)

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やはり横浜は物騒だページ33

ミハイルさんはこの後用事があるとかで先にお帰りになった。目に見えているものだけでなく、その裏に隠された何かを見ようとする…そんな人なのだろう。
少しだけ疲れた。
このまま此処に座っていると悶々とした思考に塗りつぶされそうで、また冷めてしまった紅茶を喉に流し込んで早々に店を出た。
驚いた事に私の代金はミハイルさんが支払って下さったようだ。初対面なのにこれは流石に申し訳ない。今度偶然にでも出会う事があるのなら、何かお礼でもしよう。
そう考えていると左肩に衝撃が走った。
人通りの少ないこの道で、行き合った人にぶつかってしまったらしい。振り返った視線の先で男と目があった。とても屈強で、強面な……

察した。
これは完全に絡まれると。

「いってぇっ！骨が、俺の骨が折れた！」

「兄貴大丈夫ですかい！そこのお前弁償しやがれ！」

昔から私の嫌な予感の的中率は現代の天気予報よりも勝る。
あのちょっとした衝撃で骨が折れるだなんて、この男の骨はふ菓子なのだろうか…なんていう現実逃避を今はすべきじゃない。

「…申し訳ありません。」

「謝罪で治ったら警察も病院もいらねえよ！」

謝罪を口にすると今度は前と背後で男達に挟まれる。

「金が払えないってなら身体で支払ってくれてもいいんだぞ？ん？」

「止めてください！」

「連れない事を言うなよぉ。お嬢さんが介抱したら一発で治るんだから。責任、とってくれるよな。」

もう嫌だ。
舐め回す様な視線は気持ち悪いし、怖すぎる。
先日の命の危機といい、あまりのヨコハマの物騒さに泣きそうになる。
マフィアの一件は人のためと思ってたから乗り越えられたけれど、もうキャパオーバーだ。
じんわりと目尻に涙が滲む。

「レディに複数で詰め寄るとは紳士の風上にも置けないな。」

その時、上の歩道橋から声が降ってきた。
空から垂らされた蜘蛛の糸に縋るように見上げると、其処には男性が居た。金髪の男性。外国の方だろうか。視線が合うと、男性は優しいようで皮肉を含んだ笑みを浮かべた。そして飛び降りた。
…低いとはいえ高さのある、あの歩道橋から？！

「3万ドル。」

驚きを吸収するまでもなく今度は前後を挟んでいた屈強な男達が吹き飛ぶ。
そのまま男性は男達を赤子の手を捻る様に足蹴りし、地面に叩き付ける。
あまりに明確な戦力の差に男達はガタガタと奥歯を震わせていた。
そうして金髪の男性は、今度は勢い良く手を振り上げた。
駄目、駄目、駄目！！

「もうお止めください！」