【文スト】ゼロの起点 (ページ29)

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居場所ページ29

武装探偵社に情報提供をした後、敦君の誘拐を試みた敵の正体を閲覧する為、二階の通信保管所に向かった。私はただ太宰の後を追っていっただけで記録は閲覧していない。これ以上は私が踏み込むべき領域ではないと思ったからだ。
太宰さんは私に対して何も言わなかった。
此方を見はするけれど、ただの一言も漏らさなかった。彼と並んで歩く夕焼けの道は空気が重々しく、まるで幼子が説教されるのを今か今かと身構えているよう。

「Aさん。君は…強いね。」

強い？この私が。
まさか逆だろう。
あのAや高襟帽子の男に対峙した時でさえ、体が震えそうになったというのに。
私があの状況下でそうしなかったのには、そうすべきではないと知っていたから。ただそれだけ。

「あの状況下、普通ならば一人で脱走していただろう。…君は君の取り巻く人が傷付くのをよしとはしない。むしろ他者を救うことに固執しているように見える。ねぇ、それはいったい何故なんだい。」

何故？
そう問い掛けられても私は答える事ができない。
むしろその問いの答えを知りたいのは私自身だ。
それは無意識下で、もう呪いのように自分に縛り付けられているようなものだから。
でも敢えていうのならば。

「私にはわかりません。
私はそれがすべき事だと思うから行動したまでです。」

私は貴方程賢い人間じゃない。
当たり前のこんな回答しかする事ができない。

「…君は、やはり美しいね。恐ろしいほどに。」

不意に見開かれる彼の双眸。
夕日の光を反射してキラキラと輝くそれが、不思議と美しく見えた。

敦君はボロボロになりながら泉さんと帰還した。
泉さんも武装探偵社預かりになったという。
ほっとして、思わず二人に抱き付く。
良かった、無事で。
そう勝手に思うなんて私は偽善者なのかもしれない。
でも本当に良かった。
敦君はなんだか赤面しているし、国木田さんや太宰からは何やら羨望に満ちた顔をしていたが気にしない。
ちなみに国木田さんからは緊急事態時に電話に出られず、また助けに向かえなかった事に対して謝りたおされた。彼にも彼の立場があったのだから、そこまで気にしなくてもいいのに。
そして奥さんにはしこたま怒られて、離さまいと強く抱き締められた。泣きながら無事を喜ぶ姿を見て、申し訳ないけれど温かく、そして嬉しい気持ちになった。
嗚呼、駄目だ。
やっぱり私は貴方達に毒されている。
私にも居場所が欲しいと願ってしまうだなんて。
どんなに心の中で否定しようとも。