清々しい朝 ページ14
ぬかるんだ泥沼に沈み込んだかの様に眠い。
端末の光が点滅しているのが見えて、布団から手を伸ばす。宛名は確実に、あの飄々とした男に間違いない。…メール5件に続けて電話してくるとは思わなかったが。
『グッドモーニング!』
なんて清々しい声色。鶴の一声の如く目が覚める。
感情のままに電話を切らなかった事を褒めてほしい。
私は朝に弱いんだ。
「この早朝にいったい何事ですか?」
朝5時を示す時計の針が憎い。
『助けてほしいのだよ。」
彼の趣味からして嫌な予感しかない。
できるならば関わりたくないが、先日の一件もあるから断りにくい。
「…他の探偵職員は?」
『全員に声をかけたけど駄目で。後生だから助けて。』
そう言われては仕方ない。
早々に電話を切り、冴えない頭で外套を掴んだ。
「これはどういう事ですか、太宰さん。」
本当に清々しい朝だ。
風は軽やかで涼しいし、小鳥の囀りは日の光の中で踊っている。
そんな私の目の前には、青い顔でドラム缶に沈まりかけている男がいた。そしてその横には白髪の少年が引き気味な顔で彼を見下ろしていた。
この人は何がしたいんだ?
「こうした方法があると聞いて早速試してみたんだけど、吐き気やら眩暈やら、更には息をするのさえも辛くなってきてね。」
そりゃそうでしょう、普通なら起こり得ない状況になってるのだから。
「中断しようとても抜け出せなくて」
国木田さんの気持ちがわかった。
このまま放置してしまおうかと灰色の感情が掠めたけれども、彼には先日のお礼がある。
深いため息を溢した後、傍らの白髪の少年に声を掛ける。
「力を貸してくれませんか?」
お互いに頭の中で考えている事が一致していたようだ。「えいっ!」という掛け声とともに、蹴りあげられたドラム缶は重い音を立てて転がっていった。視界の端にドラム缶から這い出て背伸びをする太宰の姿を確認すると、再び少年に目を向けた。
「今日の君は手荒いね!」なんて嬉々としている男は無視する。
「ところで貴方は…初めまして、でしたか?」
「あっ、初めましてです!僕は中島敦と言います。色々あって太宰さん達に拾われて…」
拾われて?
太宰という男は表面上では人当たりが良い人間である。しかし、理由もなく他者を迎え入れる存在ではないはずだ。何か訳ありなのだろうか。
深く追及はしまいと、笑みを浮かべて手を差し出す。
「私はAといいます。
どうぞ宜しくお願いいたします。
朝から大変でしたね。」
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作者名:風花 | 作成日時:2020年7月12日 15時