肆拾壱(無一郎過去) ページ17
そうだ。
父は杣人だった。息子である僕も、木を斬る手伝いをしてた。
僕は……僕は……父さんの手伝いが好きだった。
でも…
母「ゴホッゴホッ…！」
「母さん大丈夫？父さんが今薬草を取りに行ってるから……母さん!!……すごく熱い」
母さんが肺炎になった。
「これ、僕の布団。どお？母さん」
母「……寒い……」
「えぇ……父さん、もうすぐ帰ってくるから!!」
そして父さんは、薬草を採りに出掛けたっきり…帰ってこなかった。そのすぐ後、母さんも、息を引き取った。
母さんと父さん。大事な人を一度に亡くした。両親が死んだのは10歳の時だ。10歳で僕はひとりになった。
「…………」
有一郎「無一郎」
いや、違う。1人になったのは11歳の時だ。
僕は、僕は双子だった。僕の兄は、有一郎といった。
有一郎「情けは人の為ならず。誰かのためになにかしても、ろくな事にならない」
「違うよ。人のためにする事は、巡り巡って自分のためになるって意味だよ。父さんが言ってた」
有一郎「人のために何かしようとして死んだ人間の言う事なんて宛にならない」
「……なんでそんな事言うの？父さんは、母さんのために…」
有一郎「あんな状態になってて薬草なんかで治るはずないだろう…馬鹿の極みだ」
「兄さん酷いよ！」
有一郎「嵐の中を外に出なけりゃ、死んだのは母さんひとりで済んだのに」
「そんな言い方するなよ!あんまりだよ!!!!」
有一郎「俺は事実しか言ってない……無一郎の無は、無能の無、こんな会話意味が無い…結局過去は変わらない……無一郎の無は、無意味の無」
「ｯ………」
兄は言葉のキツイ人だった。記憶の無い時の僕は、なんだか兄に似ていた気がする。
兄と2人の暮らしは、息が詰まるようだった。
僕は兄に嫌われていると思っていたようだし、兄を冷たい人だと思っていた。
やがて季節は過ぎて…………春になった。
「兄さん、水を汲んでくるね」
有一郎「……まだやっていなかったのか」
水を汲んでいる時、ある女性と目が合った。
あまりにも美しいので、僕は最初、白樺の木の精だと思った。
その方は、御館様のお内儀で、僕らを訪ねて、こんな山奥まで来たと言うのだ。
だけど……。
有一郎「…チッ…」
ﾊﾞﾝｯｯｯ!!
結局兄は、いつものように暴言を吐いてあまね様を追い返した。
その日の夕方。
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作者名：見習い小説家 | 作成日時：2023年7月15日 11時
