757歩目 ページ16
『…。』
誰もいなくなった岬で、私はようやく少しだけ力を抜くことが出来た。
もう一度メリー号の船体に触れてみる。傷だらけで、決して綺麗な船じゃない。この海を渡るには随分小さいのに、随分と無茶をさせてきたせいだ。でも、そのひとつひとつの傷にたくさんの思い出が詰まっていることを知っている。
『…メリー、こうしてあなたに会うのもこれが最後になるね』
さぁっと優しく吹いた潮風が、海の香りを運んでくれる。普段はほっと落ち着く匂いなのに、今はその香りに胸が痛んだ。
『さぁ、最後にちゃんとお別れをしなくちゃ…』
元気よくそう言おうとしたけれど、どうしても声が沈んでしまう。甲板を歩く足取りも、いつもよりずっと重い。だけど、私はこの"未練"を絶たなくちゃいけない。
私は甲板から船内へ入る扉を開けた。みんなが眠っているせいで、シンとした船内はどこか寂しい。今にも立ちすくんでしまいそうな足を、何とか前へ前へと踏み出しながら、私はメリー号の中へと向かった。
─キィ…
普段は気にもしない蝶番の音すら、今は嫌になるくらいはっきりと聞こえる。こんなに静かなメリー号は今までなかった。夜中でも、誰かが起きていて、人の気配があったから。でも、今は静寂が痛いくらいだ。
扉の先はメリー号のラウンジだ。ここでご飯を食べたり、お茶をしたりした。
(サンジが作ってくれたごはんもお菓子もすっごく美味しかった)
そっと机に触れる。いつもルフィ達がおかずの取り合いを始めて、サンジやナミが雷を落としていたっけ。たまにフォークなんかが机に突き立ったりしたこともあったけど、すごく楽しかった。何もない航海の時は、ここでナミ達とおしゃべりもした。いつものサンジの口説き文句や、はしゃぐルフィ達の声が騒がしくて、大好きだった。
『…』
また外に戻り、もう一つの扉から下へと降りていく。女部屋に入るドアを開くと、私達のベッドが並んでいた。いつも夜になると、ここで少しおしゃべりをした。いつも未来の話ばかりだった。次の島では何がしたいとか、お金持ちの大海賊になったら何が欲しいとか、そんなことを話した。たまに愚痴もあったけど、その中には確かにみんなへの愛があることはわかっていた。
(すごくワクワクしてた、「いつか」を忘れてしまうくらい)
私はナミの書きかけの航海日誌に触れた。そして、その空ページを開くと、羽ペンにインクをつける。
(どうせ忘れられ、消えるとしても…)
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 228人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ONEPIECE」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
りと(プロフ) - みずいさん» みずいさん、コメントありがとうございます！お返事が遅くなり、申し訳ありません<(_ _)>そう言っていただけて嬉しいです！今後も不定期の更新になりますが、楽しんでいただければ幸いです♡(*´･ω･) (2022年5月31日 22時) (
レス) @page43 id: 4416da2808 (このIDを非表示/違反報告)
みずい(プロフ) - オリジナル長編が面白すぎる…！！更新楽しみにしています！ (2022年5月22日 0時) (レス) id: 8876da800a (このIDを非表示/違反報告)
りと(プロフ) - そのかさん» そのかさん、コメントありがとうございます！そういっていただけて、とても更新の励みになります！あまりにものんびりとした更新ではありますが、これからも気長にお楽しみいただければと思いますm(__)m (2022年3月27日 1時) (レス) id: b238753ec9 (このIDを非表示/違反報告)
そのか(プロフ) - すごく面白くて好きです！次の更新楽しみにしてます！ (2022年3月22日 11時) (レス) @page30 id: 35e12bb70c (このIDを非表示/違反報告)
りと(プロフ) - 黒砂糖パフェさん» 黒砂糖パフェさん、ありがとうございます！そう言っていただけて、とても嬉しいです！のんびりとした更新ですが、これからも読んでいただければ幸いですm(__)m (2022年2月2日 2時) (レス) @page21 id: b238753ec9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：りと | 作成日時：2021年12月26日 18時
