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時が止まったかのような静寂。
普段は快活な彼女もその時ばかりは目を見開き、たじろいだ。
「ま、まさか。 冗談でも笑えない」
「本気だ。 僕は、ずっと君になら殺されても良いと思っていた。 君が僕を殺して欲しいと」
「……馬鹿な事を言うんじゃない」
「どのみち、君が殺さないなら僕は勝手に死ぬんだ。 でも、もし君が僕を終わらせてくれるなら……それ以上に幸せな事は無い」
彼女は大いに迷った。本音を言うならば、彼に生きてもらう道が最適解であった。だが、彼自身がそれを望まない。彼女には彼の覚悟を変えられるほどの力が無かった。
なら、せめて彼に幸せな死を、なんて血迷った判断を下した。
その時、初めて自分が彼を愛し、愛されていたことを自覚した。
甘くて苦い、最初で最後の青春は、彼女の手によって赤き幕を閉じた。目の前には何も残っていない。彼女の愛する人は骨ひとつ残らず、この世界から消えてしまった。
「……私は、私は、」
初めてヒトを喰した時、そこには幸福感と同じくらいの喪失感が蔓延っていた。
そして彼女の耳には彼の最期の言葉が響き続けている。
「月が、綺麗でした」
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