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甘えて持ち上げてもらった塀など軽々一人で片手で超え、生い茂る木を除ける傑も、それにきゅんとしている日葵も、それを見て面白そうな硝子も、うきうきしている灰原も、それがウザそうな七海や伊地知も、一番後ろでアイスを咥える悟も。
誰もいない山道を歩き、一人寂しく頂上を迎える。
春。もうそれは遠い春。
眼を閉じれば聞こえてくる、愛してくれた彼女らの声。
彼に預けた心の声。
帰ってから故郷とも思えなくなったこの高専に、一人で大きな声を上げて泣いた。
もうそれを慰めて、素直になっていいと言ってくれる悟は別人。
その事実がまたAの涙を更にあふれさせた。
その時。
「校則違反なんだけど？八九寺。」
はっと振り向くとそこには目を包帯で隠した悟が立っていた。
「嘘つけ、まだ門限じゃないですよ。」
「ちっ、可愛くねぇな。」
「はあうざ。」
「待てよ。」
帰ろうとするAの腕を引く悟は、包帯からでもわかる程まっすぐにAを見ている。
「なんで泣いてんの。」
「故郷だと思っていたここが、私の知ってる場所じゃなかったからですよ。もういいですか。」
「怒んなよ。」
「カップも、PS3も、寮も。全部私は独りぼっち。…もういいですか、先生と生徒が2人きりでここはまずいですよ"先生"。」
怒る相手を間違えている。
それはAでもわかっていた。頭ではわかっていても心は許してくれなかった。
口調を改善しようとしているだけの悟に、Aはすべての不満をぶちまけて悟の手を払った。
「"俺は"忘れてねえよ、何も。」
そう言われてはAも止まらざるを得ない。
というかそのまま帰りたかったが、帰れなかった。
「なにも、ですか。」
「ん。」
「その格好でよく言えますね。」
「僕も大人になろうと思ってね。」
「キモイ。」
「反抗期なんだから。」
「違います。」
背を向けたまま涙を見せぬように話していたが、口調こそ変わっても変わらない会話にAは涙をあふれさせて肩を震わせる。
「Aが言ったんだろ？いなくなるなって。」
「だって、っ」
傑の消えたあの日のように、悟はAを腕の中に閉じ込めて包み込む。
「待ってたって言うのにAはこれ。悟先輩かわいそ。」
「五条先生でしょ？マジ気持ち悪い。」
「お前マジでさ、」
「あ、鼻水ついた。」
「その嘘には騙されないよ。」
「マジ、」
「は？！」
「嘘、それ涙。」
遅すぎる春は、2人の間にだけほんのり訪れたようだった。
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こにしりおん(プロフ) - 0aa2t4497251v4jさん» お気遣いありがとうございます！どっちも頑張りますね。コメント嬉しいです (7月22日 3時) (
レス) id: bb58dec0f7 (このIDを非表示/違反報告)
0aa2t4497251v4j(プロフ) - 社会人一年目はしんどいのでゆっくりで書いた方が良いですよ。私生活優先です。ゆっくり仕事に慣れて下さいね。無理なく頑張って下さい (7月21日 15時) (レス) @page36 id: b21cc666ef (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：こにしりおん | 作成日時：2022年3月11日 4時
