君に贈る杏の花。Ⅰ【五条悟】 (ページ48)

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「殺したければ殺せ。それには意味がある」

一方でいつも話すようにするっとこのようなことを述べる傑に、Aと日葵の言い合いは止まり、親友同士の彼らの会話に聞き入る。
悟は傑に攻撃の姿勢を見せるが、彼の術式が発動されることはなかった。
術式発動のために延ばされた手は、そのまま悔しさと悲しさにこぶしを作り、そのまま手は降ろされる。

「帰んぞ。」

悟はそのまま硝子がAと同じように隣に来るのを待つと、そのまま術式を発動させ、高専へと戻っていった。
3人が去るとき、すでに傑たちが人ごみの中に消えていくように背を向けて歩いているのが目に焼き付く。それを忘れることは、一生で一度もないだろう。
一種のトラウマのように、手を差し伸べても手を振り払う親友たちの背中は、Aを痛めつけた。

…高専寮。
話す気力もなく解散したAは、初めからそこに人が住んでいなかったかのようにすっきりとした日葵の部屋を訪れる。
しかし、そんな状況が惨めで惨めでたまらなくなると、自分の部屋に戻り、携帯のフォルダをあさった。
４月から数十倍と増えた写真。
それは、つい昨日。と言えどフォルダの日付は今日の深夜2時と記載されている傑の煙草の写真で終わっていた。
つい一日前は酒を飲み、ゲームをし、傑に部屋まで送ってもらい、日葵に傑の様子を聞こうと。
日葵に聞こうと……。

術師はいつ死ぬのかわからない。それはわかっている。
ただ、術師がいつ裏切るか分からないということは、教えて貰わなかった。

フォルダをめぐって何時間経っただろうか。夕焼けに染まっていた空は闇に包まれ、画面左上の時計を見ると時刻は21時と示されていた。
今部屋を出れば普通に日葵が談話室で自分を待っているのではないか。
そんなことを一瞬考えたが、それはもうあり得ない。この先一生あり得ることがない。
自分が次日葵に会うときは殺すときか遺体か。そのどちらかだ。
Aは、同じような心境であろう悟がふと頭に思い浮かぶと、ベッドから起き上がり、談話室に向かった。
しかし談話室にはだれもおらず、何となく寮を出れば、寮目の前の階段に座る悟を見つけた。

「悟先輩。」

隣に座ればいつも偉そうに弄ってくるのに、今日は何もない。
サングラス脇から見えるその目が地面を見つめているのだけはわかった。