君に贈る杏の花。Ⅰ【五条悟】 (ページ46)

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「あーーーーーめちゃ頭痛い。のになんでマッサージさせられてんの私。」

翌日。交流会の振り替え休日であった高専。
皆夕方までぐうすか寝ていたので、夕食にと集まったまま悟に捕まったAは、談話室のソファでマッサージをさせられていた。

「迷惑料だわ。」

「なんも迷惑かけてないですよ私きっと。」

嘘。なんなら覚えている。
そういえば日葵に傑のことを聞きたかったというのに、彼女は昼から任務に出かけていた。
そろそろ帰ってきていいころであるが、なかなか帰りが遅いようだ。

「なら何したか言ってやろうか？」

「なんか嫌な予感するので止めておきます。」

いつもと変わらない日常。
いつもと変わらない談話室。
いつもと変わらない悟。

なんら変わりのなかったのに、その状況は一瞬にして変わる。

「お前たち、居たか。」

「夜蛾先生？」

彼が寮に来ることはたまに空いた時間での見回り。
人を呼び出すにしてもいつも電話であるので、彼が寮に来ることは珍しかった。
自然と肩もみをやめて夜蛾の前まで歩くと、悟も同じように夜蛾の前まで歩いて行った。

担当者高専3年夏油傑派遣当日。
旧■■村の住民112名の死亡が確認される。
すべて呪霊による被害と思われたが、残穢から夏油傑の呪霊層術と断定。
夏油傑は逃走。
呪術規定9条に基づき、呪詛師として処刑対象となる。

「……は？」

「何度も言わせるな。傑が集落の人間を皆殺しにして行方をくらませた。傑の実家は既にもぬけの殻だった、
ただ、血痕と残穢から恐らく両親も手にかけている。」

「んなわけねぇだろ！」

「悟。俺も……何が何だか分からんのだ。」

あり得ない事態に頭がくらくらとする。
傑が…？人を……？その次に思い浮かんだのは日葵の顔だった。

「夜蛾先生、日葵って帰ってきてますか。」

「星野？星野は今日は何もないが。」

何とも言えない表情をしたAは、何も言わず、日葵の部屋へ走っていく。
心臓がどくどくと嫌な風に鳴る。
まだ半袖を着るほどの暑さなのに。
高専なんてクーラーは微弱であるのに。
Aの手先は冷たくなり、震えていた。

ノックをせずにドアをあければ、もぬけの殻。
スーツケース一つでやってきた彼女は、スーツケース一つで去った。
崩れ落ちるAのところへ悟が駆けつけると、ちょうど彼の携帯が鳴る。

「硝子だ。」

すぐに悟が電話に出ると、悟の表情がすぐに変わる。