君に贈る杏の花。Ⅰ【五条悟】 (ページ45)

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「んじゃ、部屋戻る。早く寝ろよ。」

「はあい、先輩ありがとー。」

玄関の前で立ち止まったAをおいて悟は部屋に戻っていくと、夏休みぶりに2人になった傑の隣へ座った。

「お使いありがとう。」

「いいえ～～、先輩が2人にさせてくれたから。」

「あら、ばれていたか。」

硝子で慣れてしまった(煙草は二十歳から)煙草の匂い。
お茶目に笑う傑をみて、なんとなくちりちりと燃える煙草をじっと見た。

「吸ってみるかい？」

「え、」

「喘息がないのなら試すくらいどうってことないよ。」

悪い先輩の傑に乗せられAは息をのむと、彼は吸っていた煙草をそのまま差し出した。

「間接キスとか気にするかい？」

「いいえ、逆に大丈夫ですか？」

「私は大丈夫だよ。」

「こんなの日葵に見られたら怒られますね。」

そう言って煙草を受け取ると、硝子や傑がやっているように人差し指と中指で煙草を挟んで吸う。(煙草は二十歳から)

「うぇっゴホッゴホッ。」

「あはは、無理だったか。」

せき込みながら煙草を返すと、こんなものを吸って何が楽しいのかと本当に驚いた。
しきりに笑う傑を睨みながら口の中の気持ち悪さを水で流し込むと、せき込んで涙目の目をこする。
これは何かの記念になるだろうと携帯でささっと煙草の写真を撮ると傑に煙草を返した。

「さて部屋に戻ろうか。送るよ。」

「わあ、ありがとうございます。」

先ほどと変わらず立つのもやっとなAは、傑に手を貸してもらいそのまま肩まで貸してもらう。
ゆっくりゆっくりと歩いてたどり着いた女子寮は、酒臭さもなく自分が酒臭いことに気が付くくらいであった。

「すみません、こんなところまで。」

「いいんだよ。」

部屋の前までたどり着くと、Aは傑にお礼を言う。
またもや笑っているのにどこか悲しそうな傑をAはじっと見つめる。

「先輩、また悲しそう。」

「そんなことないさ、それよりもA。」

「なんですか？」

「……悟を頼むね。」

「え？」

どういう意味なのだろうか。そんな悲しそうな顔をされては、嫌な想像ばかりが駆け巡る。

「どういう…。」

「おやすみ、A。」

談話室に帰っていく傑を追うこともできず、悲しそうな後ろ姿をAは見送るしかなかった。
学校をやめてしまうのか。そのような事情があるのだろうか。
明日日葵に聞いてみよう。Aはそう思いながら部屋に入ると鍵を閉めた。