君に贈る杏の花。Ⅰ【五条悟】 (ページ44)

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酔っていることをいいことに悟の右腕を両手で持つと、傑からお金を受け取り、談話室を出ていく。
夏休み、硝子と3人で遊びに行くことはあれど、このように抜け出してこそこそ自販機まで行くのは久しい。
彼と最後に2人きりの時間を過ごしたのは旅行の任務後のバスの中であるが、彼の腕にこのように触れるのは6月のお化け屋敷、7月の星を見に行った時くらいだろうか。
夏休みから考えるとマシになったがまだまだ蒸し蒸しとした暑さの中、鈴虫の鳴く声が酔っているAの中では幻想的に聞こえた。

いくら幻想的でもAの足は千鳥足。
自然とAの肩に回された腕、つまりは肩を抱かれていて。
そんな状況に半分まともな判断ができなかった。この状況を借りてAは思い切り悟のお腹に抱き着くと、歩き憎そうにした悟はこう言った。

「酔っ払い面倒くせ。」

「そりゃ酔っぱらいますよー、初陣で硝子さんはまずいですー。しかも先輩背高いからちょうどいいんですー。」

「めんどくせ。」

そう言ってまた訪れた静寂。
悟がどう思っているか知らないが、Aはその静寂すら幸せだった。
薄いTシャツ1枚の悟。自分もTシャツなので、彼の身体つきがよくわかる。
加えてこのAが好きでたまらない大好きな匂い。これは本当にAの正常な判断を鈍らせた。

「おい。」

しがみついたものの歩きにくくなったので先ほどの歩き方に戻ったが、すぐに到着した自販機にAは酔っぱらっている半分振りをして悟の大きな後ろ姿に抱き着いた。

「クソガキこれ飲め。」

そのまま振り向いた悟と向き合う形になると、サングラスをしていても分かる顔の良さに夜ながらも見惚れる。
冷たいペットボトルで頭を軽くたたかれると、Aは近くにあるベンチに座って水を飲んだ。

「はーーっ、ありがとうございます先輩。」

酒を飲んだ時にこんなにも水が美味しく感じるとは。
水の美味しさに感動していたAは、傑と自分の分のジュースを買い終えた悟を見て立ち上がった。

「さーー、帰りますよーーー！」

「うるせえよバカ。」

怒られながらもそう言ってAは悟に手をつなげと手を差し出すと、案外にも何も言わずに手を取り、悟は握り返してくれる。

「わ。やさしー。」

「お前明日絶対後悔させてやる。」

流石に恋人繋ぎはできないが、手をつないだ2人は寮へと帰っていく。
最後の最後見えた煙草を吸う傑の影に手は離れていったが、ほんの少しだけのその時間がこの上なく幸せだった。