君に贈る杏の花。Ⅰ【五条悟】 (ページ38)

今日:29 hit、昨日:17 hit、合計:58,352 hit

‣ ページ38

「やだ先輩やめて、ねえやだ！！！」

スタンダードな花火を５つくらい握りしめて一気に火をつけると追いかけまわしてくる悟に、Aは選んだばかりの火のついてない花火を持ったまま走る。
そんな追いかけっこですら、Aにとっては気持ちを膨らませる材料でしかなくて、
スローモーションで映し出されるこの碧い春の時間を、愛おしく思う。
悟のことはもちろん。だがそれだけでなく、皆で楽しむその瞬間がこの上なく愛おしかった。

線香花火が儚く消えると、花火大会の終了を告げる。
すっかり真っ暗になったあたりをガラケーの光で照らしながら片付けると、飛行機に乗る前からはしゃいでいた一行を見て夜蛾が呆れていた。

終わるには惜しい旅行は惜しくも、終わりを告げる。
空港まで戻る最後に一行が訪れたのは、ビーチ。それも遊泳禁止のビーチだった。

「なんでビーチ？」

「日葵しらないの？」

入口にある瓶詰の店。記念写真スポット。
すべてが指すものは一つで、Aはそれが何なのかよく知っていた。

「みて、日葵これ。」

この3日間よく触れた砂浜をAが指さすと、日葵はしゃがんで何かとのぞき込む。

「えっ！！！」

「硝子先輩意外とロマンチックですね～、こういうところに連れてきてくれるなんて。」

「アンタ達が喜ぶと思って選んだんだよ。」

星の砂のビーチ。
砂一つ一つが星の形をしていて、それを小瓶に入れて宝物にする観光客は多い。
Aも話には聞いていたが、星の砂を実際に見るのは初めてで、目を輝かせた。
すぐさま入口の店で指くらいの小さい瓶を買うと、日葵と星の砂を入れた。

「ただの砂じゃねぇかよ。」

「わかってないですねえ悟先輩。星の砂を見つけると願いが叶うとか、幸せが舞い降りるって言われてるんですよ。」

「あ？死んだ虫の殻だろうが。」

「まじ夢ない。ほんと最低。」

悟に悪態をつきながら、Aは願いを込める。

"皆とずっと一緒にいられますように。"

"強い術師になれますように"

"２０年後もこのメンバーで笑い合えますように"

そして、

"悟先輩と両想いになれますように"

願い事にしては多すぎるが、そんなことを願いに込めた。
付き合えますようにでなく両想いになれますようにと願ったのはきっと、彼が屑であり付き合って幸せになるわけがないという唯一の抵抗だろう。
四月のころの自分が見たら、きっとバカにするだろう。
それでもいい。もう好きになってしまったのだから。