君に贈る杏の花。Ⅰ【五条悟】 (ページ37)

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結局2級の呪霊を難なく倒したAとただ無駄な移動をした悟は、帰路についていた。
ガタンガタンと揺れるバスの中、2人は一番後ろの席で揺られる。

「付き合い悪くねぇところは評価してやるよ。」
そう言われた7月。そこからのAの気持ちは最高潮のまま。
どういう意味でいったのか。
いつもの彼であれば、あの時無視して歩いていただろうに、なぜあのような言葉を言ったのか。
考えすぎだと頭でわかってはいても、Aの心は考えることをやめない。
余計意識をしては、隣で片耳ウォークマンで音楽を聴いている彼を直視できなかった。
夏休み中も覚醒した彼は以前よりも忙しかっただろうに、Aを何度か外に連れ出してくれた。
間には硝子もいたが、恋する乙女には期待する材料にしかならなかった。

鈍く地平線に光る夕日が、無言の2人を照らす。
せっかくの2人きりの時間であるのに、巡り巡る想いや考えにAは言葉を出せなかった。

「先輩ってどういう音楽聞くんですか。」

無理やり作り出した話題を悟にぶつけると、悟はもう片方のイヤホンをAに渡す。
そんな彼の行動に固まりながらも、彼への気持ちがばれぬよう、Aは黙ってイヤホンを耳にはめた。
悟らしい。これが曲を聞いた感想だ。
それ以外考えられない、心臓が高鳴りすぎてそれどころではない。

「先輩らしい曲ですね。好きです、こういう曲。」

告白のようなAの言葉に、悟は一瞬驚いた様子をすると、嬉しそうに笑った。

「良さがわかるとかやるじゃん。」

2人の間にほんの少し近い距離の手。
その手を握ることができたらどれだけ幸せだろうか。
お化け屋敷で腕を組み、抱き(しがみ)つき、カラオケの廊下で手をつなぎ。
今は片イヤホン。彼はつくづくズルい男だ。屑男だ。
このような純情な乙女の気持ちをもてあそんでいる。

伝えたら、どうなるのだろうか。友達でいることも出来なくなってしまうのか。
2人以外客のいないバスの中。最高のシチュエーションであるのに、告白何てできないまま宿に到着した。
イヤホンを返しバスを降りると、予定であったバーベキューを明日にして、弁当を買って待ってくれていた日葵達と合流する。
日が暮れたら花火をするようで、子供のころ最高に目を輝かせていた一番大きな袋に入った花火を2つ灰原が抱えていた。
夕食の弁当を暗くなりつつある浜辺でぱぱっと食べると、硝子の持っているライターで蝋燭に火をつけて花火大会をスタートさせた。