君に贈る杏の花。Ⅰ【五条悟】 (ページ28)

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「八九寺さんなんですかそのノートは。」

「いやあ、」

「いやあじゃありません。罰則で呪具倉庫の片付けです。」

「うぇ。」

この後全員で夕食を食べて桃鉄大会だというのに…！
と反抗するわけにもいかないAは、隣でにやにやと笑っている日葵を睨みながら大きなため息をついた。

…授業後。Aは嫌々日焼け止めを塗りたくると、談話室の棒アイスを食べながら呪具倉庫を訪れた。

「うわ、」

呪具倉庫は屋外にあり、中はもわっとした湿気が解き放たれる。
一気に死亡した前髪セットを手鏡で直しながら入ると、中はツーンとしたかび臭いにおいがした。

「何を掃除したらいいんだー？」

見回しても換気で解決する埃っぽさ以外何もないので、換気をして倉庫の中で携帯を弄る。

「罰則中に携帯さわんのマジ舐めてんだろお前、しかも罰則って、ﾀﾞｯｾ。」

溜まったメールの返信をしていると、大きな影が倉庫の前に立ちはだかる。

「悟先輩。」

「今硝子と日葵がコンビニいってる。迎えに行けって言われたんだよ。」

「でも罰則終わってないし、」

「いいだろ、真面目かよ。」

そう言って背を向けて歩き始める悟の背中を、追いかけるようにAも立ち上がると倉庫の鍵を閉めて悟へ追い付いた。

「鍵返しに行きますよ。」

「いってら。」

「いや一緒に行きますよ。」

「は？」

「はいはい、行きますよー。」

寮に戻ろうとする悟の腕を引っ張るとAは職員室のほうへ向かう。
おとなしくつれられる悟とみると、Aはなんだか面白くて笑い、悟のチョップを食らった。

鍵を返し、呪術史の先生に頭を下げると後ろで悟がその様子を写真で撮っている音が聞こえる。
なんとか許してもらえ、職員室を出たとたんに悟へ蹴りを入れるがひらりをかわされてしまった。

「マジうざいこの人。」

「先輩には尊敬しろよ雑魚」

「さすがに無理。」

今となっては寮の風物詩となった煽りあいこ。
かーっと照る夕日に影を作りながら、それは寮に入って傑に止められるまでずっと続いた。