君に贈る杏の花。Ⅰ【五条悟】 (ページ26)

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名残惜しくも自然にほどかれる手と共に、Aは怒ったふりをして悟はゲラゲラと笑う。
こうも余裕に差があると、対応に困る上にA自身が本当に子どもに見えて恥ずかしかった。
彼は本当に屑なのだろう。あんな事をされても嫌いになることなんてなく、自分が将来苦しむことなんてわかっていても、屑特有の依存性に絡められて離れるどころか癖になるのだ。
蟻地獄と言えば想像は易い。

それから部屋に戻って二時間ほど、悟とAの携帯の写真フォルダを見て他愛のない話をしつつ、時間をつぶした。
よくフォルダを掘り返してみれば、中学の時の写真もたくさんあるが高校になっての２か月の写真の多さは尋常でなかった。
灰原の寝顔、悟と任務の後に行った食事、きれいな高専の桜、日葵との鏡があるたびに撮る高専の制服姿やジャージ姿。今日の私服姿。
傑に目を輝かせる日葵や煙草を吸う大人な雰囲気の硝子、悟と最速クリアしたゲームのリザルト画面。移り変わる写真は2か月以内のことなのに、とても懐かしく思えた。

ずっと、ずっとこの仲間に囲まれた幸せが続けばいいのにと、写真たちを眺めながらAは強く願った。

そう思う一方で8割わざとであろうのしかかる悟を重たいとまんざらでもない様子で押しのけるAは、これ以上期待をしてはいけないと、悟を押しのけて日葵と硝子を起こした。

学校から帰ると正門で待ち構えた夜蛾に怒られたことは、1時間後の話。
許可をとっていると信じていた自分をAは強く恨んだ。

急勾配の水無月。
愛せなければやり過ごすべき。