君に贈る杏の花。Ⅰ【五条悟】 (ページ23)

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一瞬正気に戻ったAは、このどう考えてもおかしいというか尊いというか死に難い状況に急に恐怖ではないほうの鼓動が脈打つ。
今は正気に戻ってないんだ。自分は今先ほどまでぎゃあぎゃあと騒いでいた自分なのだと言い聞かせて、雰囲気に任せて悟の腕に抱き着くと、顔が赤くなっていくのが自分でもよく分かった。
悟もまた、ほんの少し。ほんの少しだけ早まる鼓動を平常心で抑え、歩き始める。
こんな真っ赤な顔をしているのは、この戦慄迷宮に感謝しよう。
そしてそれと同時に「あぁ、硝子先輩にばれているのだな。」と悟った。

…彼の、自分が世界一心臓を締め付ける好きな香りがする。
シャツ越しにもわかる筋肉質な体。
暗くて影しか見えないが浮き出る陰で分かる顔立ち。

「(私って、本当に先輩のこと好き……)だああああああああああああああっ！！！！」

語尾のみが恐怖で出てしまい、先ほどまでの幸せは沖縄あたりまで飛んで行った。
この状況に感謝したのは数秒。恨みは何百倍。

「私から呪霊生まれそう。」

「弱そう。」

「は？」

「は？お前そんな口の利き方できる状況かよ。」

「ごめんなさいでした。」

いつもであれば煽りあい子が始まるところが収まってしまうことに悟は笑うと、高専のメンバーが誰もいないことをいいことにほんの少しだけしがみつく彼女の頭を撫でた。

……こうしてどうにか脱出に成功したA＆悟コンビは、日葵傑コンビよりも10分遅い到着で、悟にサーティーワンをおごらされたAであった。
ガラガラとした喉をAも一緒に買ったアイスで冷やすと、夕食兼ねてショッピングモールの隣に併設されているカラオケへ移動。
勿論学生であることを隠して中のパーティールームに入ると、靴が脱げる当時ではとても珍しい部屋にテンションを上げながらカラオケが始まった。