君に贈る杏の花。Ⅰ【五条悟】 (ページ19)

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ポケットに手を突っ込んでAを置いてどこかへ行ってしまう悟を追いかけて、Aもまた談話室をそっと、でも駆け足で出ていく。
そうして悟の背中を追いかければ、彼は寮を出ていく。

「先輩！先生に怒られますよ！」

「あ？気にすんな。」

「気にすんなは無理ありません？私まだ入学して一か月ですよ？」

「じゃあ来ねぇの？」

「……いきます。」

悟の行く先に何があるかはわからないが、好きな人の行く先についていかないという選択肢はなかった。

「やっと夜も寒くなくなりましたね。」

春を感じさせるような、ちょうどいい温度の夜。
2人きり歩く道に高鳴る心臓が相まって、身体はぽかぽかした。

「お前珈琲飲めんの？」

「無理です。牛乳9割なら飲めます。」

「マジ？分かってんね。」

「先輩も飲めないんですか？」

「カフェオレに砂糖入れまくったら飲める、」

互いにおこちゃま舌であるということが分かりハイタッチする。
だからいつも紙パックのココアやいちごみるくを飲んでいるのかと、Aはここ最近で一番の納得をした。

「ほらよ、」

いつの間にか立ち止まった自販機の3つならぶ場所で、悟はパックのいちごみるくを2回押すと、一つをAに差し出した。

「えっ、いいんですか？」

「飲み終わったら対策すんぞ。」

「手伝ってくれるんですか？」

「しゃあなしな？」

「今日は優しいんですね。いただきまーす。」

身長が180を裕に越えている悟と見上げ、礼を言うとAは紙パックにストローを刺してちゅーっと吸った。

「今日は？いつもだろうが節穴かよ。」

「どの口が言ってるんですか？」

「いちごみるく返せや。」

「ごめんなさいごめんなさいいつもです飲ませてください。」

いちごみるくと大事そうに守ると、悟が寮の方向に戻るのでAも一歩後ろをついて歩いた。
談話室に戻ると、先ほどと同じで皆すやすやと眠っている。
椅子の引く音がしてしまっては起こしてしまうので、Aは教科書をもってゲームの時にいつも座る、悟の右足横のソファの足元に座った。

「教えられねえだろうが上がってこいよ。」

緊張で心臓と頭が爆発しそうになりながらAは悟の隣に座る。
皆が寝ている談話室で、好きな人とソファで隣。
息をするのすら苦しいくらいに心臓は高鳴って収まらない。

「見せろ、」

辞めてと叫びたくなるほどに香る悟の香り。車でかけてくれていた上着と同じ匂いが間近に香って鼻から離れない。