君に贈る杏の花。Ⅰ【五条悟】 (ページ17)

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‣ ページ17

「1級の呪霊と出会ったときに…、悟先輩の制服の端握っちゃって、」

「うん。」

「あと多分呪力切れで倒れてから車まで先輩が運んでくれてて。」

「うん。」

「起きたら先輩が上着かけてくれてた。」

「キャーーーーーーーっ！」

自白するAよりもじたばたして喜んでいる日葵に、Aは少しばかり引きながらも、それを思い出して鼓動を早める。
もし学内で恋愛するなら灰原や七海、せめて夏油と、まともな人にしようと思っていたのにもかかわらず、高校入学して一週間でまともの真反対の悟への恋を自覚してしまいそうだ。
しかしあの顔であれば選び放題、後ろに女がたくさんいることは火を見るよりも明らか。
まず彼が自分を好きになる等あり得ない上に、もし付き合ったとしても幸せになれないのは想像すればすぐにわかることだった。

「日葵と同じ推しだよ、恋愛はできない。」

「でももうしてる顔じゃん。」

「そんなことない。考えすぎ。」

Aはそう言って立ち上がると、ドアを開ける。

「明日古文テストだよ、早く寝ないとね。おやすみ。」

えーっと寂しがる日葵をおいてドアを閉めると、隣の自分の部屋へと入る。
教室から小テスト対策に持ち帰ってきた古文の教科書を眺めるが、頭に浮かぶのは動詞活用表ではなく悟。

「下二段活用え・え・う・うる・うれ…。」

声に出して読んでみるが、耳触りの良い悟の声に、どの角度からでも美しい顔。
いつもダルそうにしているあの態度。サングラスを少し下げてみる眼。
貸してくれた上着から香る匂い、すべてに心臓がしびれる。

「こんなの無理じゃん！」

テスト勉強も、推しで想いをとどめておくのもどちらも。
Aは教科書を放り投げると、目覚ましのスイッチを入れて制服のままふて寝した。

出会った卯月。
恋は自覚したら始まり。

杏子の花は桜(自覚)よりも一足早く、はにかむように花を咲かせる。