君に贈る杏の花。Ⅰ【五条悟】 (ページ12)

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「そう。」

思いのほか真剣に教える悟。
自分よりもはるかに大きな手で手やら腕やらを触られては、なんだか心臓がうるさい。
集中したいのにできない。こんな状況にどうしていいのかわからず日葵のほうを見やると、日葵はすでに目がハートで、彼女に助けを求めるのは諦めることにした。

「あと避ける時。頭を下げると敵の次の動きが読めねえだろ。一方後ろか左右に避けろ。」

「あーなるほど。」

父親や家庭教師に教えられていたのとは格別に違う、実践向きなアドバイスに深く納得する。
すると急に飛んできた悟の攻撃に、咄嗟にAは言われたことを思い出して一歩後ろへよける。

「やるじゃん。」

そう言って笑う悟が格好良くて、Aは照れ隠しにタオルでかいてもない汗を拭った。

「じゃあ俺から一本取れ。」

「は？」

「生意気かよ。なに？ひよってんの？」

相手は五条家の六眼持ち特級。無理に決まっている。

「違いますよ。」

「安心しろ、10パーくらいでやってやるから(笑)」

はいキレた。
Aは煽りのプロ、悟に乗せられて構えをとると、いつも通り足を踏み込み全力で向かう。
…しかし、いつも相手にしている呪霊や同級生と違いすべてが空回る。
必ず当たるであろう足での攻撃の後のパンチも、大きく避けると見せかけて地面を張って背後をとって蹴りを入れるやり方も。
すべてが当たらず、あろうことか彼はポケットに手を突っ込んだまま余裕そうにこちらを見ていた。

「腹立つううううう！」

そう言って込めた渾身のパンチもまた片手で受け止められると、そのままその手を握り軽く吹き飛ばされた。

「よっわw」

「五条にいじめられて可哀想A。大丈夫？」

硝子がそう言って差し伸べた手を借り、Aは立ち上がると、悟にフィードバックをもらうべく元の位置へ戻った。
しかし何だろう。とても腹が立つほどに煽られているのに、余裕そうに立ってこちらを見る悟が格好良く見えて悔しい。

「私可哀想。」

「言ってろ雑魚。お前さ、初めにやるその踏み込みどこで覚えた。」

「なんか勝手に？」

「それ使って移動を早くしろよ。伸びしろはある。」

「どうやってですか？」

「その足の角度を…。」

そう言ってまた始まる彼の親身なアドバイス。
決して香水ではないが心臓がソワソワする匂い。それは彼がAの背後から囲うようにAの体制を直しているせいである。