忘れなくていいよ。忘れようとしないでよ。(まふまふ) ページ26
『あっ…まふ、まふさん?』
「…そうです」
買い出し帰りだった。
町で偶然出会ってしまった。
気を付けろって散々そらるさんから言われていたのに。
『あの、ファンなんです
いつも応援しています』
「あぁ、ありがとうございます…」
何を言われるだろうか。
写真?サイン?
この辺で見かけたこともばらされてしまうかもしれない。
隠れてため息をつく。
『じゃあ、私はこれで…』
去っていく女の子。
つい、あ、え?と情けない声をあげてしまった。
それだけ?と思ってしまったのだ。
本当に彼女の姿が見えなくなり、なぜか寂しいと思ってしまった。
このまま突っ立ってもいられない、と気づき、自宅方面へと歩き出す。
自宅に帰るのではなく、そらるさんの家に行くことになっている。
急ごう、そしてそらるさんに相談してみよう。
あの子の姿が見えなくなった時に寂しいと思ってしまったこと。
今も感じる胸のもやもやのこと。
チャイムを鳴らすとすぐに開くドア。
作業部屋にいたそらるさんに遅くなりました、と声をかける。
「本当に遅かったな、何かあったとかじゃないよな?」
「その何かがあったとしたら、どうします?」
「…はぁ、話してみろよ」
僕の返答に察するところがあったのだろう。
ため息をついて、ヘッドフォンを外す。
僕は先ほどあったことを包み隠さず話した。
「…ということです。
この気持ちは何なんでしょうか?」
このもやもやは何なんだろう。
…なんであの子はあんなにあっさりと帰ってしまったんだろう。
「なぁ、まさかそのファンに恋したとか言わないよな」
「こ、恋!?」
そんなわけないじゃないですか!と否定して急いでリビングへと移動する。
早くなる鼓動と、赤くなっていく顔はきっと気のせいだ。
恋愛なんて、今はしている場合じゃないと決めただろう。
音楽に命を懸けると決めたはずなのに。
「そんなわけ、ない」
そうこぼして頭を抱えた。
そらるさんと話して気付いてしまった。
この気持ちは今の僕が持ってはいけない。
これはきっと、何年振りかの恋心だ。
「まさか、そらるさんに気づかされるなんて…
こんな気持ちを抱いてしまうなんて…」
その後のそらるさんとの打ち合わせは、まともなものではなかった。
4人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:蘭人 x他1人 | 作成日時:2020年4月1日 22時